■廃止になるの?
「岩手競馬は廃止になっちゃうの?」。あねごのクーちゃんがあの日、店に駆け込んできた。「こんなに熱烈に声援を送ってきたのに」。
「まだまだこれからだよ。これはあくまでも岩手競馬のありかた懇談会がまとめた方向さ。この会合の答申がどれだけ有効なのかはまだ不透明な部分があるからね」。ブン屋のカズさんがなだめてくれた。
■赤字の原因は?
「岩手競馬はどうしてこんなに赤字を抱えてしまったの。年間延べ200万人が入場して、400億円もの売り上げを記録しているんでしょう?あのイオンの年間販売額をはるかに上回るのよ。そんな施設を棄ててしまえというの?」。クーちゃんが納得しない。
「原因は2点に尽きる。一つはオーロパークの建設に予算以上に費用がかかりすぎたこと。もう一つはバブル経済崩壊後、景気が低迷し馬券の売り上げが減少しつづけていること。入場者数は減ってはいない。ファンの底辺は確実に広がっているんだけどね」。カズさんが説明してくれる。
「オーロパークの建設は当初250億円の事業費を見込んでいたけれども、最終的にはその倍近い450億円にまで膨らんでしまった」。「山をまるごと切り崩した大事業だったからね」。競馬オタクのマモルくん。「おまけに遺跡が出土して工事がおくれ、さらに予想以上の難工事で造成費用がかさみ、とうとう当初予算の2倍にまで事業費がかさんでしまったようだね」。カズさんがその経緯を説明する。
「その起債とバブル期に設定された高い金利の返済が経営を圧迫したんだね」。マモルくん。「売り上げが伸びていれば、何も問題はなかったんだ。このデフレでどの商売も売り上げは低迷している。でも赤字に転落するとデフレなんて言い訳は許されないからね」とカズさん。
■あり方懇
「確かに岩手競馬は赤字の運営を強いられているけど、廃止なんてあまりにも唐突すぎない」。クーちゃん。
「驚いたよ。あり方懇は存続に向けた建設的な議論の場にはならなかった。地方財政に寄与しないのなら廃止するべきだ、という短絡的な結論に向かいそうだね」。カズさん。
「この委員の中には競馬ファンも競馬サークルで生活している人たちもいないじゃないの。ファンあっての競馬。ファンはお客さま。消費者からモニターを選ぶように、なぜファンの声に耳を傾けないのかしら。これは変よね」。クーちゃん。
■ファン不在の議論
「ファンを委員に入れると、存続に意見が誘導されると判断したのかしらねね」。クーちゃん。
「だったらなぜ競馬を管轄する農林水産省やJRAの担当者に委嘱して、競馬行政の現状について意見を求める場にしなかったのだろう」。マモルくん。「ファン不在で議論を進めるこの姿勢が、岩手競馬の売り上げ低迷の一因ともいえるよ」。マモルくん。
「もし岩手競馬が廃止に追い込まれるなら、僕たちは立ち上がらなくてはいけないな」。マモルくん。
■シービスケット
「岩手競馬の廃止を求める委員たちにはいま話題の映画『シービスケット』を見てもらいたいね」。カズさん。「クライマックスシーンで、挫折を乗り越えてシービスケットが優勝する瞬間、ポラート騎手が呟く。『馬が僕らに(生きる)力をくれた』と」。「泣いちゃったわよ」。クーちゃん。「もし文化の役割が日常生活を営む人たちを励まし、生きる力を与えることだとするなら、競馬は文化だと胸を張って言い切ることができるな」。カズさん。「だから岩手競馬をなくしてはいけないんだ」。
■文化としての競馬
「そうだよ。県立美術館も博物館も施設単独での運営をみると絶対に赤字だよ」。マモルくん。「けれどもだれも批判せず保護しているのは、その運営が文化だと県民が認めているから。文化を保護し育成するにはお金が必要なんだよ。競馬だって立派な文化だ。もっと躍動的なね」カズさん。「赤字でいいとは決して言わないが、もうすこし議論に余裕がほしいな。再建にまったなしの状況は分かるけれども。東北地方に唯一残っている施設なんだからね」。
「だから僕らは増田知事の英知に富んだ判断に期待するしかない。シービスケットの『馬が僕らに力をくれた』というメッセージに励まされながらね」。
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