2004年 5月 5日 (水)       

■ 〈標本室へようこそ〉 鶏のがん「マレック病」

 国内で高病原性鳥インフルエンザの発生が確認され、鶏の病気に大きな関心が集まっている。牛や豚に比べ、注目されることが少なかった養鶏産業だが、鶏肉、卵の安定した供給の陰には、関係者の地道な努力があった。

家畜の病気と戦ってきた研究の歴史を紹介する岩手大学ミュージアム本館のコーナー。マレック病の病理標本も紹介されている
【写真】家畜の病気と戦ってきた研究の歴史を紹介する岩手大学ミュージアム本館のコーナー。マレック病の病理標本も紹介されている

 鶏が感染するポピュラーな病気の一つにマレック病がある。鶏のがんの一種で、ヘルペスウイルスによって発生する。1967年、英国で発見された。この病気にかかると、リンパ球が異常増殖し肝臓、脾臓、腎臓、心臓、腺胃、末梢神経、皮膚など全身各所に腫瘍(しゅよう)ができる。10年ほど前まではブロイラーの食鳥検査で最も摘発、廃棄される数が多い病気で、本県では年間の損失額が約2億円にも上っていた。

 マレック病のウイルスは羽根のフケに乗ってヒヨコに感染する。ウイルスの発見後、ワクチンもすぐに開発され、人を含めた、がんに有効な世界で最初のワクチンとなった。ワクチンはウイルスの感染そのものは防止できないが、がん細胞を殺し腫瘍化するのを防ぐ効果がある。

 当時も、市場に出回る鶏へのワクチン接種は行われていたが、接種の仕方がずさんだったり、衛生管理が不十分だったりして、効果が十分に発揮されていなかった。

 県や県獣医師会が協力して本格的な対策に乗り出したのは92年。この年、食鳥検査法の施行に伴う食鳥検査が全国一斉にスタートし、処理羽数が鹿児島県、宮崎県に次いで全国第3位の本県でも年間約8千万羽を処理する13処理場を対象に検査を開始した。

 この年、食鳥検査で、出荷禁止・全部廃棄の対象となった鶏は約89万8千羽。このうちマレック病によるものが実に49%を占めていた。「検査がなければ、そのまま出荷できた」と養鶏家の間からは少なからず不満の声も上がった。厳正な検査が結果的に摘発数を押し上げることになったが、検査官たちの診断は信頼できるものだった。

 この事態を見て、県も積極的な支援に乗り出した。財政的な助成も始まり、ワクチン接種や鶏舎の消毒を徹底。鶏舎移動時のオールインオールアウト、ウイルスをまき散らす原因になる鶏糞ボイラーの使用停止なども進められた。以後、10年間で罹患率は激減し、03年度、出荷禁止・全部廃棄の対象となった鶏のうち、マレック病によるものの割合は18%まで抑制された。

 岡田幸助岩手大農学部獣医学科教授は出身の北海道大でマレック病を研究。ウイルスの立体構造を世界で初めて明らかにし81年日本獣医学会賞を受賞した。しかし、ウイルスの構造という極めて専門性が高い分野の研究に終始し、獣医師でありながら、家畜や農家とほとんど触れ合うことがない生活に少なからず、抵抗も感じていたという。

 岩手大に移り、マレック病をはじめ、畜産農家や養鶏家が抱える課題と直接、向き合うことになった。「地域に根差した大学の役割を改めて実感している」と話す。


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします