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元県立博物館長、金野静一さんが著した「海の年輪−三陸のある女性の生涯」(ツーワンライフ発行)=写真=は実在した明治生まれの女性カネを通じ、三陸地方に受け継がれてきた習俗や生活史を現代に残そうとしたものだ。
ここに記録された習俗などの相当は、現代人にとって男尊女卑の思いを感じざるを得ないだろう。今日、戦後の民主主義以降の思想、教育や地域の固有性が薄れてきた実態から、その習俗を継承するものは少なくなった。確かに男女平等や人権思想の浸透、科学技術の進歩は歓迎すべきもので、現代社会を成り立たせる要素となっている。
一方で、地域の伝統が薄れゆくことに対する危機感も強い。現代人が直面する大きな課題だろう。
この両者を合わせ考えるとき、地域のアイデンティティーにかかわる問題とはいえ、人権思想との衝突により復活はできないだろう。
この現実と向き合ったとき、われわれの時代は何をできるか。その一つが記録ということになろう。記録されることで後世へと既に消えてしまったものを含め先人の民族史を伝えることができる。
著者は三陸の大船渡出身。民俗学、伝記などを研究し、本著も長年にわたって地域で収集した貴重な資料や証言が基になっている。
カネという女性は頭の切れる、当時としてはおそらく少数派だったろうが、地域に残る習俗に女性差別をかぎ取っていた。本著ではそのカネの出生から、結婚までの人生を基軸に当時の港の姿を浮かび上がらせている。
実践を伴って継承すべき風習か、あるいは記録だけになるのか。その選択、判断が求められるだろうが、少なくとも記録がなければ始まらない。本著は、スタートラインに立つ記録にもなろう。
(井上)
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