|
盛岡市と青森県十和田市に拠点を構える写真家細川剛さんがこのほど、フォトエッセー「あの樹に会いに行く」を山と渓谷社から発刊した。1本のブナの樹に向き合った17カ月を写真とエッセーでつづった。「フィールド&ストリーム」(ソニー・マガジンズ−現在は休刊)に1994年から96年まで連載されたものを加筆、訂正したもの。定価は税込みで1400円。
「1本の樹とゆっくり付き合ってみたい」。そんな作家の思いから、選ばれたのは八甲田山のブナ。大木でも美樹でもなく「ふつうの森のふつうの樹」。その樹に会うために毎月その場所を訪れ、近くにテントを張って何日かを共に過ごした。
そこには樹や自然から何かを学んでやろうとか、癒やされようとかいう余計な気負いがまったくない。作家はただそこにいる。そして身の回りのものを見、耳を澄ませ、においをかぐ。
暑さの中で秋の香りを感じ、雪に囲まれながら春の足音を聞く。樹との生活の中で、感覚が研ぎ澄まされていく。当たり前のことを当たり前に感じること。普段の生活では鈍っていく感覚を取り戻すような営みがここにある。
作家はそれを「関係性の日々」と振り返る。何気ない時間を共に過ごしながら関係を持ち深めていくことで広がっていく世界は、毎日散歩に訪れる近所の川原など日常の風景をどんどん変え始めた。
一つひとつの関係を丁寧に結び紡いでゆくことは、どんなに身近で当たり前のものでも新しい広がりを与えてくれることを知った。それも新しい旅の一つと思えるようになったという。
「あの樹は誰でも持てるもの。100人いれば100通りのあの樹がある。その中からいろいろな出会いが始まっていく。この本が、それぞれのきっかけになってくれれば」と願っている。
58年兵庫県生まれ。北里大学獣医畜産学部獣医学修士課程修了。在学中より青森県十和田市に在住。卒業後、同県を拠点に東北地方の自然とそこに生きる人たちを中心に撮影を続ける。98年「森案内」で第14回東川賞新人作家賞を受賞。日本写真家協会会員。
|