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一三八、接頭語「ぶっ」「ぶん」を含む動詞−ぶっかす・ぶっくらしぇる・ぶっぱなす・ぶんなげる・ぶんなぐる…
前回「ひっ」「ひん」を接頭語とする動詞を紹介しました。盛岡弁では、下に来る動詞(の発音)によって「ひき(引き)−」という動詞が促音化したり、撥音化するということを書きました。
同じようにして「ぶつ」という動詞も、下に来る動詞がk、t、hなどの子音で始まる場合は「ぶっ」と促音化し、mやnのような鼻音(鼻から息を抜かす音)で始まる場合は「ぶん」と撥音化します。
前者の例としては、ぶっかす・ぶっかれる・ぶっくらしぇる・ぶっこむ・ぶっただぐ・ぶっぱなすなど、後者の例としては、ぶんなぐる・ぶんなげる・ぶんまげる・ぶんのめすなどという動詞があげられます。いずれも元の形は「ぶち」で、その終止形は「ぶつ」(打つ、叩く、殴る、という意味)です。
動詞の上に付くこの「ぶつ」は、実際に「ぶつ」という意味が生きている場合もありますが、単に強調のために使われる場合もあることなど、「ひっ」「ひん」とよく似ています。たとえば「ぶっかす」「ぶっころす」は、打ってこわす、打ちつけて殺すということで「ぶつ」の意味が生きていますが、「ぶっこむ」「ぶっぱなす」の「ぶつ」は実質的な意味をもたない強調のために添えられた言葉といえましょう。
「うつ」は古くから使われている動詞ですが「ぶつ」は江戸時代になって誕生した話し言葉です。「うつ」と「ぶつ」は、おそらく深い関係のある言葉で、もともと「うつ」と言っていたものが、会話の中で強調されて「ぶつ」に変化したものかもしれません。「ぶつ」と濁音の、しかも破裂音で言った方が、いかにも強く打つ、という感じが出るような気がするからです。
「ぶつ」は専ら暴力的な行為を指すのに使われますが、「うつ」は「ボールをうつ」「鐘をうつ」「舌鼓をうつ」「釘をうつ」「ピストルをうつ」「敵をうつ」など、はるかに広い使い方をします。
東京の人は「ぶつぞ」「ぶつわよ」「なぐるわよ」などと言うところを盛岡の人は「ぶなぐるぞ」とか「ぶっただぐぞ」「ふたつけるぞ」などと言います。つまり複合動詞になっているわけで、それだけ迫力があります。
以下、例文を紹介しながら取り上げていきましょう。
@ぶっかす−「ぶちこわすbuchikowasu」が促音化し、半母音のwが消え「ぶっこぁす」となり、さらに二重母音のoが消えたものです。「あすごのえ(あそこの家)ぶっかすたづー(こわしたそうだ)」などと言います。「なにもかにも、ぶづがすてすまった」などと言うように「ぶづがす」と言うと、さらに強調した乱暴な言い方です。
Aぶっかれる−「ぶっかす」の受身で「たいふうで、えもなんも(家も何も)ぶっかれだづー(壊れたそうだ)」などと言います。「えぁ(家が)、ぶづがれだ(壊れた)」のように「ぶづがれる」は「ぶっかれる」を強調した言葉です。濁音が三拍も続いて力強さを生んでいます。
Bぶっこむ−「くれぇどごさ(暗い所に)ぶっこむぞ」「くいもの、ぶっこんできた(食べて来た)」などと言う時の「ぶっこむ」は「ぶちこむ」の訛りで、勢い良く中に入れることで、「食べる」の卑語的な表現です。
「こむ」という動詞は、「つっこむ」(「突き込む」の促音便)「かっこむ」(「まんま、かっこむ」と言うと、御飯を「掻き込む」つまり、乱暴に大急ぎで食べることです)「ひっこむ」(「引き込む」の促音便)などのように、しばしば複合動詞となります。
(岩手医大教養部教授)
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