2004年 8月 4日 (水)        

■ 〈昔話でがんす〉429 菊池悟 「笛吹きむこ」

 昔あったど。ある所に笛吹きばり習ってる人あったど。笛吹きばり習ってるもんで上手になったど。日本一の笛吹きの名人になったもんで、天竺の大王菩薩の娘が聞きつけて「なんと美しい笛の音だ。あのようなええ音を出す人は、なんたな人だべ」と、ある日、雲の隙間から垣根見てから、すっかり好きになってしまったど。

 それを誰さも言えねぇで、とうとう恋患いをしてしまったど。それを大王菩薩が聞いて「そんだれば俺も一つ聞いてみっか」と、言って聞いたど。「はて、こりゃ、どれようにかして、あのように、好きだと患いまでしているんだし、嫁にけでもんだ」と毎日そればり思っていたど。

 ある時、都合のええ日をみて「毎日、思っていた」と、言ったれば、笛吹きは「そんでば」と、いうことで、嫁さけることになったど。そして、ご祝儀して、二人で暮らしていたど。

 ある時、殿様から呼び出しがあったど。「はで、はで、なんたなこと言われるもんだべ。困ったこった」と、その日、行ってみたれば、その良くねぇ殿様が「何日までに、灰縄千尋持ってこねぇば、お前どこの嫁のてるて姫どこ、もらわねぇばなんね」と、言ったど。

 「はて、はて、そんたなものできるわけねぇ。灰縄千尋など、どのようにしたって、できるわけねぇ」と、困って、家さ来てみたれば「はて、はて、今日は何、言われてきたのや。兄ぁ」「今、灰縄千尋持ってこねぇば、嫁っこ引き取る、って、言ってた。なんだごとしたらえがべ」「そのような灰縄千尋など、ぞうさねぇ、晩げ早く、おれ、縄打つし、お前一生懸命になえ」と、てるて姫は、その縄をすっかり巻いて、すかっと、笈の中さ詰めて、そして、そのままで火をつけて、そのまま置いて、火消えてみたれば、立派な灰縄千尋ができていたど。

 そして「朝間、早く持って行って、そして、『持ってきました』と、上げてこい」と、言ったど。そして、言われるように持って行って「灰縄持ってきました」と、見せたれば、「灰縄持ってきたし、嫁ごなどとらねぇがら帰れ」と、言われて、その日は帰ってきたど「帰ってみたれば、また命令が来たど。「こんどは、なんて言われるものだべ」と、恐る恐る行ってみたど。そしたれば、「十五里ある魚を持ってこねぇど、お前の嫁のてるて姫どご、もらわねぇばなんねぇ」と、言ったど。

 「そんなこと言われてみたども、十五里ある魚など、いるもんだが、いねぇもんだが、それだば、とっても持っていかれそうもねぇ。ただ、嫁ごをとられる番だ」と、因って来たど。

 そしたれば「兄ぁ、兄ぁ、なんたなこと言われてきたや」「はで、はで、こりゃ、十五里ある魚、持っていかねぇど、お前どことるって、言われてきた。十五里ある魚などいるもんだべが、と、うんと困って帰ってきたどこだ」と、言ったれば、「なに、なにたいしたことねぇ。十五里ある魚など、なんぼもとれるすけ。心配することねぇ。まず、翌朝早く起きて、川さ行くべ」と、言ったど。

 次の朝間、二人連れで行ったど。川の石を上げてみたれば、ごり鰍一匹とりあてたど。まず、五里ある魚一匹つかめたど。また、ずーっと行って、そっちの方の石を上げて見たれば、また入ったど。「ほら、えがった。これで、十里ある鰍つかめた。あと少しだ。あと一匹はやくとりてぇものだ。」と二人して石を、あっち上げ、こっちあげして見たど。

 ここんどこでは、とる魚はいねぇぐて、兄ぁ、困って泣いていたれば、「ここにいねぇば、川が長え、暗くなるまでとれば、大丈夫だべ。石を上げてみれば必ずいるがら」と、てるて姫が慰めたど。そうして、次々と行って石上げてみたれば、いだっだど。

 「こりゃ、えがった。こりゃ、逃がすと大変だ」と、二人で、そのごり鰍をとったど。「さぁ、これで十五里の魚とった」と、二人で喜んで、はげ籠さ入れて帰ったど。「今夜は遅くて行かれね。朝早く行ってあげてこい」と、言ったど。ようやく夜が明けて、朝飯食って、十五里の魚持って行ったど。殿様、十五里の魚持ってこられたので嫁ことりかねたど。

 「まずは一安心」と、家さ帰ってみたれば、また来いという証文が家さ届いてあったど。「おっかねこった。また『何日まで来い』と、いうのは、姉っことる、ということだ。二回目はとられねぇが、三回目となるとだめだべな」と、心配して行ったど。

 「殿様、今、来ました」と、言っと、「今、来たか、今度、打たん鼓に鳴る鼓ひょうひょうでんの袖破り、というものを持ってこねぇば、お前のあの嫁こばとるぞ」と、言ったど。「さぁ、困った。そういうものあるもんだべか、こんどこそだめだ」と、泣きながら帰って来たど。

 「今日は、何言われてきたや、兄ぁ」「こう、こう、こういうこと言われてきた。とてもできねぇど、おらぁ悲観してきた」「やぁやぁ、そんなもの造作ねぇ、まず、昨日、南天の木の蔭さ行ってみたれば、そのこそ、ワンワンじゅ音するもんで、何事だと、そっと行ってみたれば、カル蜂の巣の大物、巣くっていた。それ持って行くと、決してとられることねぇ。心配しねぇでいろ。そういうものは、昼は決してとらねぇで、夜間あべ」「夜間、なんたにしてとるもんだべや」と、聞いてみたど。兄あ、とること知らねぇがったずが、嫁ご、天竺の大王菩薩の姉娘に生まれた身だけあって、それは、利口で、知らねぇことねぇがったど。

 「小袋こさえて、そして、口開けて、スポッととってくれば、何も心配ねぇぐとれる。おれと一緒にあべ」と、言ったど。そして、夜間、小袋持って提灯つけて行ってみたど。そしたれば、大カメ蜂いだったど。皆寝てしまって、一匹も飛んでねぇで、そっと、小袋の口開けて、スポッと入れたれば、皆入ったど。

 そして、家さ帰って「殿様さな『打たん鼓の鳴る鼓、ひょうひょうでんの袖被りを持ってきました』と、言って、持ってってあげろ。あげた時、初めて袋の口開けて、お前、離れて見ていればいいし、そして、開けて脇さいろ」と、言われて、その通り、離れて見ていたれば、カメ蜂、ごしゃえで、座敷内、ワン、ワンと、飛んで歩くもんだけ、そして、見たれば、家内中さ、それこそ、飛んでくっついて、蜂だもんだがら、そごら、こごらさくっついて刺して、痛くて、痛くて「どうか、早く持ってってけろ、痛てぇ、痛てぇ」と、願い下げするもんで、帰ってきては「三度目だけで、ねがべ」と、帰って来たど。それから、安心して、楽々と、暮らし、家内むつまじく暮らしたどさ。どんどはれ


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