2004年 10月 6日 (水)        

■  〈盛岡ことば入門〉212 黒澤勉 「わらす、まぷてでけろな」

 一五二、見守る−まぶる、払う−ほろう・ほろぐ・ほろる、回す−ます、弁償する−まどう・まよう

 

 @見守る−まぶる

 「まもる」という言葉は「目(ま)+守(も)る」ということで、目を離さないで、じっと見る、見守るという意味です。古語の「まぼる」とか「まぶる」という言葉はこの「まもる」の発音が変化したものでしょう。盛岡弁の「まぶる」は、それが方言として残っているものです。

 畑仕事に出かける「かっちゃん」が、10歳の娘に言います。

(母)「はだげさ(畑に)いって、かせぇで(働いて)くる。おめぇ(お前)、ちゃんとわらす(子供を)まぷてでけろな

(娘)「ん、わがた。おら、ちゃんとまぷてやるはんで(見守ってやるから)」

 ここで補足しておきますと「やるはんで」は高橋タミ子さんから伺ったもので、高橋章浩さんは「やるがら」と言うそうです。盛岡でも在の方になると「やるすけ」とか「やるへで」と言います。皆様の地域ではどう言っているでしょうか。

 A払う−ほろう・ほろぐ・ほろる

 揺り動かしたり、軽くたたいたりして、払い落とすことを盛岡弁で「ほろう」とか「ほろぐ」と言います。『南部のことば』には「ほろる」と出ています。これらは、いずれも「はらう(払う)」の発音が変化して生まれた言葉でしょう。

 雪の中を歩いて家についた二人が語りあっています。

「ゆぎぁ、かがってらがら、ほろてけろ」

「ん、ほろてやる。おらのも、ほろてけろでぁ」

 ほろってやったり、ほろってもらったり、そんなふうにして仲も深まっていきます。それにしても東京の人たちはこんな時、何と言っているのでしょうか。

 B回す−ます、かき回す−かっちゃます

 ○世の中には、その人がいると人間関係が乱される、というタイプの人がいるものです。そんな人について二人が語りあっています。

「あのしとぁ(人が)くれば、かっちゃまされるよ」

「んだんだ。あのしとぁ、かでぇねえほあい(仲間に入れない方がいい)」

「んだら、もすわげねんども(申し訳ないが)はずぐべす」

 かくして、仲間はずれにされてしまいました。

 ○泥棒に入られた人が皮肉屋の友人にそのことを訴えました。

「どろぼーぁ、えさ(家に)へって(入って)なんもかんも(何もかもひどく)かっちゃまされだでぁ」

「すて、なにがとらえだどが(取られたのか)」

「いや、なんも、もてがねふだ(持っていかないようだ)」

「おめはんどごぁ、なんもとるのぁ、ねんだべよ(ないんだろうよ)」

 「かっちゃます」というのは、かき回す、ということで、家中を乱雑にしたり、人間関係をごたごたさせたりする時に使います。これは「掻き」「裂き」「回す」という三つの動詞が複合したもので、「かっちゃぐ」という言葉もあります。「かっちゃぐ」は、「掻き裂く」の変化した言葉で、ひっかくという意味です。

 「おふろのゆっこ、かましておんで(おいで)」とか「あのしとぁ、くれば、かまされるよ」などと言う時の「かます」は「かっちゃます」と似たような意味で「かきまわす」を縮約した盛岡弁です。「かっちゃます」や「かます」の末尾の「ます」は、「まわすmawasu」の半母音wがほとんど消えて、残った二重母音のaaが一つだけになったものです。「まってこ」は、回って来い、「ましてあるぐ」は、回して歩くということで、いずれも「まわす」が縮約化して「ます」になっています。

 「おいわいのもぢ、ましてけでくなんせ」と言うと、お祝いのもちを回して下さい、ということで、血縁や地域共同体のきずなの強かった昔は、回し物をすることも多かったようです。しかし、もらってうれしいものならけっこうなことですが、なかにはどこへ持っていっても有り難がられないようなものもあります。大沢俊子さんによると、そんな時は「あっちゃまし(あっちへ回し)、こっちゃまし(こっちへ回し)、てあましだ(手に余してしまう)」などと言って笑ったといいます。

 C弁償する−まどう・まよう

 「弁償する」などという難しい漢語など盛岡弁では使いません。「まどう」とか「まよう」と言います。「まどう」は共通語でも使いますが知っている人は少ないかもしれません。高橋章浩さんはこれを「まよう」と言っているということで「まよう」は子供の言葉ではないかといいます。『和訓栞』という江戸時代の辞書にこの「まどふ」について「俗に金銀諸物に就て損じたるを本のごとくするをまどふといふも迷はしたる物を還すよりの詞なるべし。賠償の意なり」と説明しています。

 仲良しの二人が貸してやった「ばった」をめぐって争いを始めました。

「おめがらかりだ、ばったなぐすてすまたでぁ」

「まどえ、まどえ」

「まよえったって、なぐすてすまったの、どやせばいのえ(どうすればいいのか)」

「そったらごどぁ、おらさ、かんけいね。まよえったら、まよえ」

 きつく責められて、ついに男の子は泣き出してしまいました。

 似たような思い出をもつ方も多いのではないでしょうか。(岩手医大教養部教授)


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします