2004年 12月 08日 (水)        

■  〈盛岡ことば入門〉221 黒澤勉 「なんもかんも、やぎもぢやいで」

 一五九、ねたむ−やがねる、もうける−もげる、熟して自然に落ちる−もげる

 

 @ねたむ−やがねる、やぎもぢやぐ

 焼きもち焼きの「かっちゃん」と結婚した「ごで」(亭主)が嘆いています。

 「おらほのかっちゃんにぁ、ほんに、こまったもんだ。となりのかっちゃんさ、よっこあって、そってらっけぁ(話していたら)、なんもかんも、やぎもぢやいで、やがねで、あれこれどぐぢまがす(愚痴をこぼす)。こまたもんだ」それを聞いた友人が答えます。

 「なに、おめさんも、にたら、くさらてらんでねのが(にやにやしていたんでないのか)。やぎもぢやぐだの、やがねる、だのって、おめさん、こぼすてるども、やがれるぶん、おめのごど、ほれでるってごどなんだ。いいごどでねえが」

 難しい言葉でいうと悋気(りんき)、嫉妬(しっと)−これを盛岡弁では「やぎもぢやぐ」とか「やがねる」と言います。共通語で言うと「焼きもちを焼く」「やっかむ」ということで、この「やっかむ」が「やがねる」と変化したものでしょう。「焼きもちを焼く」というのは、嫉妬することを「焼く」というところから、その上に「焼きもちを」という言葉をつけたのです。

 嫉妬の感情を「焼く」という喩(たと)えで表したのは面白いことで、怒りは「燃える」、不満は「くすぶる」など、いずれも燃焼と関連しています。

 「嫉妬」という漢字をみるとわかるように、中国人はこれを女性に特有の心理ととらえましたが、これは男が浮気することが多いためでしょう。嫉妬はその当人からすれば苦しみですが、第三者的に観察すれば、いろいろと面白いので、川柳などのかっこうの素材となっています。

  焼餅(もち)で女房ふ  くれてあつくなり

  焼餅を下女は小さく路  次でやき

  さる廻し子はやっかん  で跡を追ひ

 以前に盛岡弁に「やがねっこ」という言葉があることを紹介しました。「やかねて」生まれてくる子供、ということです。

 わたしは「やかねる」のは、お腹の中の子供で、もらい子が大切にされているので嫉妬するのだろうと言ったところ、志和敬子さんは、いや、焼くのは亭主で、子供がかわいがられているので亭主が嫉妬して、女房をかわいがる、そのためにできた子供だと言うので、盛岡弁研究会のとき、大笑いになりました。皆様は一体「やがねる」のは誰だと思いますか。

 それはともあれ、子供のできない夫婦がもらい子をして育てていると、これまでなかなか授からなかった子が生まれる、その子供が「やがねっこ」と呼ばれます。

 「やぎもぢやぐ」が多くの場合、男女間の恋愛感情にまつわる心理をいうのに対して、「やがねる」は「いいきもの(着物)きてらって(着ているって)、やがねでる」のように、相手のことをねたましく思う、というときにも使います。

 Aもうける−もげる

 近所の家にやっと男の子が授かった、ということについて二人が話し合っています。

 「いままで、びったこわらす(女の子)だったども、ようやっと、おどごわらす、もげだづー(もうけたということだ)」

 「ほりゃ、いがたごど(良かったこと)。おなごばり、んまれだひにゃ、かまどけぇすてすまる。やっぱりおどごぁんまれで、かどぐ(家督)ついでけねばなあ」

 ここでいう「もげる」とは共通語の「もうける」です。盛岡弁では長音が短音になり、語中のカ行音は濁音化しますから、「もうける」は「もげる」となります。

 「もうける」とは「お金をもうける」の「もうける」で、「席をもうける」のように準備する、という意味のほかに、古語として、妻や夫などの関係を結ぶとか、子供を得るという意味でも使いました。

 おそらく、将来のために何か準備するということから、自分にゆかりのある人をつくる、縁者とする、子供を得る、というような使い方になったものと思われます。

 共通語でも「子供をもうける」などという言い方をすることもありますが、「子を産む」という言い方と比べると、出産行為それ自体をさすのではなく、社会的な、家族関係を支度準備する、というようなニュアンスがあるのではないでしょうか。

 B熟して自然に落ちる−もげる

 豆柿が雪の上に落ちているのを見て、二人が話しています。

 「ありゃ、まめがぎあ、もげでら」

 「もげるくれえでねば、んまぐねんだ(おいしくないのだ)。しぶあぬげで、きっとあまぐなってらごった(甘くなっていると思う)、くってみんべ(食べてみよう)」

 「もげる」は、ちぎれて離れ落ちるということです。「もぐ」が、ねじって引き離すという意味ですから、自然に落ちたのに対して「もげる」を使うのは間違いだ、と言いたくなりますが、自然にちぎれて落ちることをいうのにも、このように「もげる」を使います。

 ここで使われる「もげる」の「げ」は鼻濁音で、鼻から息を抜かします。これを本濁音にすると、先ほど紹介した「もうける」という意味になってしまいます(アクセントはいずれも「げ」にあり、ここが高くなります)。

 同じ「もげる」でも、鼻濁音か、本濁音かで大違いになりますので注意が必要です。(岩手医大教養部教授)


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