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一六四、寄る・寄せる−よさる・よしぇる(つづき)
B「よさる」に対して「よせる」があります。盛岡弁では「よしぇる」、かつての在郷の太田あたりでは「よへる」となることが多いようです。
知り合いの家を訪ねた女性が別れぎわに言います。
「まだ、よしぇでくなんせや」
「んー、いづでもよがんすよ。こんどぁ、なってももてこねでやー(何も持ってこないでね)」。いつも手土産持参で訪れる知人へのいたわりです。
この場合の「よせる」は、立ち寄らせる、ということで「よる」に対する使役(〜させる)の表現です。畠山先生は次のような例も教えてくれました。
「おらほのうぢさ、よへるべちゃ」
「んー、んだば、そーすが(そうするか)」
この場合の「よへる」は人を集める、というような意味です。
次に高橋タミ子さんから伺った例を紹介しましょう。外から入ってきた末の娘が言います。
「もすこし、よさって。もじょれっこして」甘えるような声です。
「んー、へえれ、へえれ。そどぁさむがべ。こだつぁはぢにん(「炬燵(こたつ)八人」−炬燵には八人入れる。みんないっしょに暖まろう)って、そうんだちぇ(言うんだよ)」やさしい姉たちは妹のために喜んで席を空けてやります。
「もじょれっこ」は「もじょる」ことを「おしくらまんじゅう」のように、遊び化した言葉で、「もじょる」(身体を動かして少し席などをあける)の名詞です。
貧しい家族が身を寄せあうように、一つの炬燵を囲んで楽しく過ごす団欒(だんらん)のひとときが、昔の暮らしにはありました。一人一部屋で、一つ炬燵を独占して寒さも知らずに過ごせるのはよいとして、何か寂しい現代の家族の風景ではありませんか。
一六五、よける−よげる、寄こす−よごす、溺(おぼ)れる−あっぷくう 倹約する−よじむ
@よける−よげる
前にいる人が邪魔で進むことができません。そこで言いました。
「そご、よげでくなんしぇがー(よけていただけませんか)」そのやさしい口調に、前にいた女性も、恐縮してお詫びします。
「ありゃ、ありゃ、きーつがねんで、おもさげがんせん」
これは丁寧な話のやり取りです。同じ状況でも例えば次のようなやり取りもあります。
「そご、よごでけで」少しきつい言い方です。相手も少し腹が立って、そっけなく詫びます。
「ありゃ、もすわげね」
相手に腹を立てているときはもっと乱暴になります。
「そごよげろ」命令口調できつく言います。
「わがった、いまよげるでぁ」。相手の口調に反発を感じ、腹立たしげに答えました。
以上は「よける」を使った例ですが、「しゃる」という言葉を使うともっと乱暴になります。たとえば次の会話。
「そご、しゃれ」まるで殿様のような命令口調です。
「いま、よげるがら」。相手は、腹を立てながら答えました。
売り言葉に買い言葉といいます。こちらが笑顔で接すると、笑顔が返ってきますし、無礼な、ぞんざいな態度(言葉)をとると、相手からも不快な態度(言葉)が返ってきます。
「よげる」は共通語の「よける」で、これらの例で示したように、ぶつからないように避ける、という意味です。
盛岡弁で「それ、よげで」とか「よげでおぐ」などというとき、不要なものとして取り除く場合と逆に、いいものを選んでよけておく場合があります。
「しゃる」は「さる」の発音が、変化した言葉です。舌先が歯茎から硬口蓋(こうがい)の方に移動するために「さ」が「しゃ」となったものです。
A寄こす−よごす
高い棚の上にあるものを取りたいのですが、背が低くて届きません。
「そごにあるの、とってよごしてくなんしぇ」
「ああ、これすか、ほれ」
「おありがどがんすた。やっぱり、せっこぁ(背が)、たげーばいーなすー(高いといいですねえ)」
共通語の「寄こす」は盛岡弁で「よごす」となります(この場合の「ご」は本濁音で、これを鼻濁音にすると「汚す」になります)。また、アクセントも共通語の場合、「寄こす」の「こす」が高くなりますが、盛岡弁では「よごす」の最後の音節「す」が高くなります。
「よごす(寄こす)」は「やる」の反対語で、「なげでよごす(投げてよこす)」「おぐってよごす(送ってよこす)」「かってよごす(買ってよこす)」「けでよごす(呉れてよこす)」のように、さまざまな動詞が上について「どのようにして」寄こすか、その方式を示す複合動詞を作ります。(岩手医大教養部教授)
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