2005年 2月 8日 (火)        

■  〈音楽時評〉落ちてきた最後の雨の一粒 上原彩子リサイタル

 第12回チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門で女性初の優勝者となった上原彩子さんのピアノリサイタルが5日、盛岡市盛岡駅西通の市民文化ホールで開かれた。

  F・ショパン作曲の「24の前奏曲作品28」で開幕。バッハの「平均律クラヴィーア曲集」から影響を受けたと言われるように、第1番ハ長調から第24番ニ短調まで平均律で24のすべての調整で書かれている。穏やかな旋律の長調と、激情がほとばしる短調の曲が交互に繰り返される。

  第8番嬰ヘ短調では心の中に波打つ感情をそのまま表したような、いすから腰が離れるぐらいの力強さで熱演。第13番嬰ヘ長調では街の朝の風景を思わせるようなゆったりとした旋律を展開した。

  第15番変二長調「雨だれ」は雨音を思わせる左手の低音の上に、右手の繊細な旋律を重ねた曲。強くなっていく雨脚を低音部の力強さが支える。山場のフォルテシモは、厚い雲を割って荘厳な光が差し込んだ瞬間。雨がやみかけた空の明るさを思わせるラストに向かう優しい旋律の中、天から落ちてきた最後の雨の一粒を表すような高い音を印象的に響かせて曲を締めた。

  最後の第24番二短調では軽快なリズムに乗せて、幻想的な雰囲気を表現。人間の理性と感情や、人生の光と影などを思わせる対照的な長調と短調の繰り返し。全曲を締めるラストはそのすべてを肯定するかのように、力強く自信に満ちた華麗な演奏で幕を閉じた。

  M・ムソルグスキー作曲の組曲「展覧会の絵」は、親友の建築家で画家のヴィクトル・ハルトマンの遺作展を見たときのインスピレーションを基に作曲したもの。10曲の小品からなり、各曲のタイトルにはハルトマンの絵の題名が付けられている。

  曲の冒頭と途中に挟まれる「プロムナード」は展覧会で絵を見て歩く様子を表すという。それぞれの曲の間に形を変えて現れる旋律が全体をまとめ上げている。

  地底を守るこびと姿の妖怪をイメージした第1曲「グノームス」では低音で不吉な雰囲気を表現。第6曲「サムエル・ゴールデンベルクとシュムイル」では貧富の差のある2人のユダヤ人の会話を表現。両手がそれぞれ奏でる旋律は、2人の人間が口論をしているよう。それぞれの旋律がまとまって静かな和音になり、力強いフォルテで曲を締めた。

  第10曲「キエフの大門(古都キエフにて)」はロシア正教のコラールによる壮大なフィナーレ。プロムナードの旋律も盛り込まれたラストは、反射する光のプラズマのようにドラマチックに展開された。

  1998年モスクワの第11回チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門で最年少セミ・ファイナリストになる。02年第12回チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門で女性として、日本人として史上初めての第1位を獲得。このほか受賞多数(伊藤智子記者)


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします