2005年 3月 3日 (木)        

■  〈杜陵随想〉伊能専太郎 「言葉、言葉、言葉」

 子供はおもしろい。「ネズミやしき」とか「ライオン公民館」とか言うので驚いた。バス停泉屋敷と第四公民館のことだった。選挙カーの「ご声援ありがとうございます」が、子供には「5千円ありがとう」に聞こえてしまう。

  これに似た誤解は、向田邦子の『眠る盃』や、黒柳徹子の「弁慶シクシク夜河を渡る」などが有名である。あの強い弁慶が、夜シクシク泣きながら河を渡る−どことなく納得がいく。もちろん詩吟「鞭声粛粛 夜河を渡る」なのだが。

  人は、子供に限らず、知らない言葉を、知っている言葉に置き換えて「理解」してしまうようだ。ホテルのスイートルームは、スイートメモリーのスイートではなく、suiteで、辞書を引くと「(ホテルなどの)一続きの部屋(寝室・浴室のほか居間などがある)」とある。

  フリーマーケットも自由マーケットではなく、flea(吸血昆虫のノミ)で、いわゆる「のみの市」のはずだが「フリーマーケットですから、何でも自由に出品してください」と呼びかけたりする。

  インターネット詐欺のフィッシングも、魚釣りかと思えば、つづりが違う。フリーの客は、「ふりの客」というれっきとした日本語があった。フリーライターはフリーランスのライターと言うべきだとか。

  テレビではサッカーの「セリエA」を「セリエ・アー」とか言っている。イタリア語なんだろうか。でも「G線上のアリア」が「ゲー線上…」とはあまり聞かない。「セリエ・アー」と発音するテレビが、(ホームに対する)awayを「ア・ウ・エー」と3音節で言う。英語を知っている人なら「ア・ウ・エー」はないだろうと思う。

  昔はアブラハム・リンカーンだったのがエイブラハムになったし、ルーズベルト大統領もローズベルトが正しいらしい。マッキンレーはマッキンリー、ペンシルバニアはペンシルベニア、フイルムはフィルムと、身辺騒がしい。

  キャメラとかテクストと言う人は、知的だと誤解される。チーム・ティーチングはいいのか。チー・パーチーなどと、お茶会はお笑いのネタにされる。あげく、正しく発音しようとして、丁字路を「ティー(T)字路」などと言って恥をかく。

  3年スィー(C)組は居心地が悪い。ベットとかバトミントンとかバック(かばん)の類推だろうか、「人間ドッグに行って来たの」と聞かれ、思わずワンと答えそうになった。5イニングス投げて自責点ゼロなどと、インニング(イニング?)を複数にするアナウンサーもいる。盛商スリーゴールズ!と叫んでいいのか。セブンスターズ下さいと言ってたばこを買うのか。

  新聞の見出しは「ペイトリオッツ2連覇」。湾岸戦争の時のミサイルはパトリオットだった。女優はヘップバーン、ローマ字はヘボン式だ。カロリン諸島があり、キャロラインがいる。元素はチタン、土星の衛星はタイタン。


  日本語で言えば、分別(ふんべつ)ある大人がごみの分別(ぶんべつ)をしない、というようなものなのかな。何をお読みですかと聞かれたハムレットの答えは、「言葉、言葉、言葉。」だった。言葉はおもしろい。(盛岡市本宮)


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