2005年 4月 1日 (金)        

■  〈賢治の歌〉1 望月善次

 中の字の徽章を買ふとつれだちてなまあたたかき風に出でたり
 
  【現代語訳】(入学が決まった盛岡中学校の制帽の)「中」の字の徽章(きしょう)を買うと父と連れだって、生暖かい風の中へ出たのです。

  【評釈】「明治42年4月より」と書かれた最初の作品。「明治四十二年四月十二日盛岡中学校寄宿舎に入る。父に伴はれたり。舎監室にて父大いなる銀時計を出して、一時なり(ママ)呟(つぶや)けり。」の余白の書き入れがある。現存賢治短歌としては、その舞台が、最も古いものとなる。もっとも、賢治が短歌を読み出したのは、盛岡中学校3年である明治44年のころであるし、「歌稿」の整理はさらに後年のことであるから、一連は「回想歌」だということになる。賢治の短歌創作の開始が、中学校の先輩石川啄木の歌集『一握の砂』(明治43年)の影響によることは、良く知られているが、両者とも「回想歌」の方法が基調になっている点が興味深い。「つれだちて」の相手の「父」は、書き入れがあって初めて特定が可能。  (岩手大学教授)




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