2005年 4月 10日 (日)        

■ 岩手大学平山学長 入学式あいさつ要旨

 本日は、岩手大学に入学した総数1319名の新入生の皆さんを迎え、多数のご来賓・ご父兄のご列席の下、入学式を盛大に挙行できますことは、本学教職員一同の大きな喜びであります。

  幾多の難関を乗り越えて本学へ入学した皆さんに対し、教職員を代表して、歓迎とお祝いの言葉を贈ります。また、新入生をこれまで支え励まして来られたご両親やご家族の皆様に対し、心からお祝いを申し上げます。

  本日、皆さんは様々な期待を持って本学に入学したことと思いますが、最初に新入生の皆さんへ私からの期待を述べたいと思います。

  現在の社会は、戦後の貧困や危険に満ちた社会に比べれば、経済的な豊かさや社会の安全度は飛躍的に向上していますが、過去よりも解決が難しい複雑化した問題が数多く存在しています。

  身近な例を挙げてみましょう。かつて、北上川は魚の住めない「赤い川」、「死の川」と呼ばれていました。東洋一の硫黄産出量を誇った松尾鉱山は、本学に同胞寮を寄贈するほどの隆盛をみましたが、坑道から流れ出る強い酸性の廃水によって北上川は宮城県に至るまで汚染され、史上最悪の水質汚染を生じてしまいました。清流を取り戻すための努力が続けられ、本学の教員後藤達夫教授等は鉄バクテリアを使った画期的な中和処理方式を生み出しましたが、多くの人々の思いが漸く実り、昭和49年には盛岡に再び鮭が戻ってくるまでになりました。しかし、現在も坑道からpH2という強酸性の廃水が流出し、北上川の水質を維持するためには、毎年5億円もの経費をかけて、今後も中和処理は休むことなく半永久的に続けられなければなりません。母なる川、北上川の清流化を実現するための根本的な恒久対策は、まだ見つかっていないのです。

  また、少子・高齢化時代における社会の在り方は、中山間地域において過疎化が進む本県はもとより地方の共通の問題です。身近な地域でも学校の統合、コミュニティーの維持、老人・弱者の福祉対策など多くの課題解決が求められていますが、財政的な負担と住民サービスの向上の観点を踏まえて、住民が納得できる方向を見いだすことは容易ではありません。一方では、住民の参画や地方分権が進められていますが、地方の個性を生かしながら、財政的に健全で心豊かに過ごせる地域社会をつくるために、我々はどう対処すべきでしょうか。同様の問題に悩んでいる世界の先進諸国にも大きな朗報をもたらす解決策を、この岩手から発信することができれば本当に素晴らしいことです。

  このような身近な問題は、我々が解決しなければならないものの一例です。皆さんは、このような期待に応えられる十分な力を持っていますが、もし「誰かがやってくれる」といった受動的な生き方を選択するとすれば、将来社会に明るい展望は生まれません。皆さん自身の「能動的な取り組み」によって、初めて社会は大きく前進するものでありましょう。

  皆さんのこれからの大学生活は、これまでの生活に比べてかなり自由度が増し、様々な時間の使い方が可能となるはずです。多くの人との出会いを積極的に求めて社会の実情を理解し、世界に直結した地域社会における自分の役割や居場所をしっかりと位置づけることが大切です。

  皆さんは、大学生という非常に恵まれた環境を与えられていることを十分自覚し、社会が求めている役割を担うことの出来る人材となることをこころから期待しております。また、そのために岩手大学を大いに活用してほしいと願っています。

  さて、次に岩手大学が皆さんに提供するサービスについて、説明したいと思います。

  最近、大学に対する社会からの期待はますます拡大しています。本学では、これらの要請に対して積極的に取り組んでおりますが、その中で人材育成|教育|を最も大切な責務として位置づけております。学部においては、「人間としての十分な素養の習得と十分な基礎教育」に主眼がありますが、本学が伝統とする「豊かな人間性と国際的視野を持つ、専門的職業人」を育成するため、大学における講義や演習のみでなく、企業で研修を行う「インターンシップ」、「教育実習」、「フィールド調査」などを設けています。また、留学生との交流などを通じて、外国の異なる文化に触れる機会を提供しています。

  学生に対する支援・指導は、各学科・課程でも行いますが、キャンパスの中央に位置する「学生センター」では、教務関係、生活・健康相談、就職関係の窓口を整備し、入学から卒業・就職まで一連の学生生活の支援体制を準備しています。勉学に関して問題が生じたり、体調や精神面で不安を感じ、助言や協力を必要とする際には気軽に利用して下さい。

  学生が自主的に行う課外活動では、本日の入学式に参加している「吹奏楽部」、「合唱団」をはじめ、多数の課外活動団体やボランティア団体があり、スポーツ・文化両面で活発に活動し素晴らしい成果を挙げています。昨年度は、全国レベルの優秀な成績を残した「放送研究部」、「競技ダンス部」、「陸上競技部」に対し学長表彰を行いました。また学生と地域社会の交流を奨励するため、学生らしい企画を公募し、活動に必要な資金的支援を大学が行っています。

  また、本学の卒業生は、「粘り強く、誠実な人材」としてこれまで企業から高い評価を頂いていますが、企業訪問や就職説明会などを度々開催し、就職情報の提供と指導に努めております。平成16年度の就職率は90%を上回り、数年前に比べて大幅に上昇しているところです。

  さて、本学では、昨年末以来、幾つかの残念な事件が連続して発生いたしました。このような出来事は決してあってはならないことです。現在、原因究明と対応策を検討していますが、学生とのコミュニケーションを確実にするためのガイドブックを作成し配布するなど幾つかの対策を既に講じてきたところです。

  私は、特に、学生と教職員との接点をできるだけ多くしたいと考えています。クラス担任や学生センター職員はもとより、私自身も皆さんと話し合う機会をこれまで以上に設けていきたいと計画しておりますので、不安を持つことなく、皆さんは勉学に励んでほしいと思います。

  新入生の皆さんには、教職員とのコミュニケーションや学生同士の会話を大切にしながら、自らをはっきりと表現する能力を持つことを期待しています。また、全ての生活指導は、大学の中だけでは不可能ですので、地域社会やご家庭の協力もお願いしなければならないことは言うまでもありません。

  もう一点、「授業料の値上げ」について触れさせて頂きます。このことについては、弘前大学、秋田大学の両学長と共に反対の意向を表明し、値上げを回避する努力を重ねて参りましたが、結果的にご父兄の皆様にご負担をかけることになってしまいました。

  大学の収入は、国からの運営費交付金とご父兄からの授業料収入の合計が収入の大部分を占めますが、今回の授業料標準額の改訂に際しては、値上げ分に相当する額が運営費交付金から減額される仕組みとなっていますので、値上げしても大学の収入は増えるわけではありません。大学の判断で値上げを行わない場合は、運営費交付金はその分落ち込み、現在でもギリギリの経営を更に圧迫することにつながります。ご父兄の皆様には、このような事情をご勘案いただき、値上げは大学として苦渋の選択であったことをご理解頂ければ幸いです。

  最後になりましたが、岩手大学の沿革・施設について簡単に紹介いたします。

  昨年までの岩手大学は、1949年(昭和24年)に新制の総合大学として、教育学部、工学部、農学部の3学部で発足致しました。 その後、1977年(昭和52年)に人文社会科学部を設置しております。平成16年3月をもって、新制大学としての55年の歴史に終止符を打ちましたが、現在の岩手大学も国が設置する大学であり、教育の機会均等を保証し、科学技術創造立国を担い、地域社会の学術文化の中心としての大切な役割を果たしていることは、これまでと何ら変わりはありません。

  本学は、これまで46000人以上の学部学生、5000人を超える大学院生など数多くの人材を輩出してきました。現在、大学院を有する4つの学部には、総数約6000名の学部学生・大学院生が在籍し、約800名を超える教職員によってマンツーマンの教育研究に取り組んでいます。

  盛岡市上田に位置するキャンパスには、全ての学部や多くの附属施設がありますが、盛岡市内には4つの教育学部附属校園、郊外には農学部附属の演習林・農場、北上市には工学部附属の金型技術研究センターを持ち、東京有楽町には盛岡市東京事務所の一角を借りて岩手大学東京オフィスを開設しております。

  本学は一つのキャンパスに4学部がまとまっており、様々な分野の連携を容易にし、学生生活を多様なものにしています。緑に恵まれたキャンパスは、盛岡高等農林学校時代に宮澤賢治が学んだ校舎である重要文化財農業教育資料館、農学部植物園、教育学部自然観察園、地域社会との窓口となっている地域連携推進センター、図書館等を含めて、大学全体を「ミュージアム」として、広く地域社会に開放していますが、多くの市民の「憩いの場」としても利用されています。皆さんは、なるべく早い機会に、大学の隅から隅まで自ら体験し、これからの皆さんの活動の場を良く知っていただきたいと思いま す。

  入学式に当たって、少し長くなりましたが、私の想いや本学の概要を述べました。本日から始まる皆さんの大学生活の参考として頂きたい思います。

  改めて、皆さんが本学における学生生活を十分楽しみながら、人間的に大きく成長することを心から祈念して入学式における告辞と致します。

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