■ 〈盛岡ことば入門〉239 黒澤勉 馬喰の娘に生まれて(下)
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一七〇、脱線余話−馬喰の娘に生まれて(下)
ある時、「極楽野にじぇんこはらってね、ひとぁいる、取ってくれば、なんぼが(いくらか)こずげぇやる」って、おどーにそわれでいったごどがんす。小岩井の駅で降りで、訪ねでいって「おれなす、もらって、えさいがねば(家に帰らないと)、おやじさくらえる(しかられる)」って、うそまげで、なんぼがもらって帰りあんした。でも、障子の破れた貧しい農家で、もう二度と行けないと思いあんした。
馬喰はよぐ歌を歌ったもんであんす。そのとき、おらのかがぁは、いつも馬方節を歌いあんした。おどーは、かがの声がよく、唄がうまいのが自慢だったどもいあんす。
かがぁ、われぁ、田畑に行ってかせがねばねがったがら、おもしぇぐねがったどもいやんすが、お客さんのためにままかせで(ごはんを食べさせて)、うだっこまで歌わせられたり、踊ったりしねばながったのす。
さげこぁ入ってくると、「それ、んまっこも歩がせろ」って、そって、「じぇんこ」(お膳)をひっくり返して、おわんを逆さにしてたたいて、馬の歩くひづめの音をつくりあんした。きれいな音が出ないと「このんまぁビッコだ」って、おどげかだって(冗談を言って)あんした。
馬喰にはそれぞれ自分の縄張りがあって、それを荒されたりすると、よぐごんぼほりあんした(機嫌を悪くしました)。馬喰は大酒を飲み、飲めばごんぼほったり、おがーをたたいだりするのを見ながら、おがったので、さげっこ飲まない人にとつぎたいと、おらぁ、思っていあんした。
おどーは若い時、人の家に奉公にいって働いたことがあるためか、礼儀や言葉遣いに厳しく、小遣いをもらうにも、ひざを立てて「おどーおねがいぁあります」といって頼まねばなんねがたのす。
それでも、おらは、おどーがすぎで、出がげるときは「おらも連れでってけろ」って、頼んで、よぐ一緒に行きあんした。一緒に行くと、その先々で小遣いをもらったりするのが、うれしかったもんでがんす。
馬の売買が決まっていよいよ、人の手に渡すという時は、鍋の木のふたにミソを乗せて、飼葉を食べさせあんした。んまぁ、売られていぐのぁ悲しくて、涙が出たこともありあんす。そんなとき、おどーは「いいどごさ、売ったがらよ」と言いました。馬にも「げんきにくらせよなー」と声かげあんした。
セリの時「軍馬御用」と主催者が声をあげると、一匹の馬でも家が建つくらいの高い値で売れだって聞いであんす。「どごそごのえでは、軍馬おさめだ」というと有名になったずーごどでがんす(有名になったものだそうです)。嫁に来た家には、昭和十三年に馬力大会でもらった賞状をかげでいあんした。馬力大会も盛んに行われたもんであんす。
おらも、がっこーさ、へりたがったども、「おなごぁ、がぐ、つけなくてい」(学問を身につけなくていい)って、ひゃくしょさせらえやんした。家でとった野菜を、おふぐろとリヤカーに積んで、長町の銀映座の前の夜店に広げて出しあんした。
「おらほのぁ、んめぇきみでがんすよ。さどずぎ(砂糖の肥料)にして、まいだんだじぇ。まんつ、買って、食ってみらしぇ(食べてみなさい)」というと
「じゃじゃじゃじゃ、さどずぎにしたのが」っておぎゃくさんもいいあんした。
高校さいってる同級生ぁ来たってば、路地さ隠れで、半分泣ぎながら野菜売りしあんした。十八で嫁さいぎあんしたが、そのじぇんこも野菜売ってためだもんでがんす。たんすは、おどーがら買ってもらったもので、今でも使ってあんす。嫁に来た所でも「野菜売りに行ぐ」って、しゃべれば、おがさんに「あんまり売るど、食うものぁ、なぐなるんだちぇ(なくなるんだよ)」と言われあんした。それでも、こぜにかせぐ、商売がすぎであんした。
実家ずーのぁいいものでがんす。かせいでる田圃から実家の屋根が見えあんしたが、恋しくて涙がでたこともありあんす。お袋も、おれがかせぐの、見べっと、ヨシの間からみていることもありあんした。
実家に帰ると、ちゃんと、ひざっこして(ひざをついて)、「おどーまだ、きたんじぇ」って言いあんした。おどーは「いったん、けだものは(くれたものは)、そっちの人なんだじぇ。」とか「れずぎぁ(礼、辞儀は)、でーじな(大事な)ものなんだぞ」って、言ってあんした。
教育はありがだいものでがんす。今でもおらぁの心では、おやじ、おふぐろが、生ぎでるど、もってあんす(思っています)。
夜ねるとき、まなぐひぐれば(目を閉じると)、むがしのけしぎぁ、思い出されてきあんす。むがしぁ、ほんとにびんぼーで、かんなみだ(苦労した)もんでがんす。いまぁ、ほんとに、いいじだいになりあんした。
二人の娘、授がりあんしたが、一人さ、むご(婿)とって、日曜には家族そろって百姓やってもらってあんす。ありがでどもってあんす(ありがたいと思っています)。おらぁ、いま、一番幸せだど、もっとりあんす。(岩手医大教養部教授)
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