2005年 5月 9日 (月) 

       

■ 〈古都の鐘〉鈴木理恵 ウイーンの桜

     
   
     
       ウィーンの我がアパートの前の桜が今年も咲いた。
  何でも、姉妹都市の日本のどこだかの町から寄贈されたものらしい。

  ここの桜の花の色は、品種のせいなのだろうか、それとも環境のせいなのだろうか、濃い桃色だ。おまけに後ろにはルネサンスの教会がそびえていて、ますますしっくりとこない。

  わたしにとって─多分日本で育った人なら誰でも─桜というと、新しいスタートという言葉とは切り離せないだろう。式典の季節、新しい学校、新しい制服にシューズ、新しい友達、まだよく知らないものへの新鮮さと、慣れ親しむまでにはもう少しという緊張感。そういう不確かな状態を、桜の淡い色合いと風に散る様子は、何とぴったりと表現していることか。

  人が何かを頭に思い浮かべるとき、そのものと一緒に、そこに付随するものたちや感覚までもひっくるめて思い描く。それは文化というものかもしれない。

  それでも毎日アパートを出るたび、ルネサンスが垣間見えようとも、しばし海の向こうの故郷の春に思いをはせる。岩手公園の石垣、花見酒の残り香、体になじまない制服で気になるあの人のうわさ話をしたっけ…わたしの連想ゲーム、眉間(みけん)のしわが緩むひとときである。
(ピアニスト、ウィーン在住)

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