■ 〈伝承の周辺〉373 遠山英志 「火の神とヒョウタン」
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ヒョウタンは品種によっていろいろな形を呈しているものの、陰陽五行の法則上、木気に属する。室町時代の画僧・如拙の代表作「瓢鮎図」は、ヒョウタンでナマズを抑える構図である。ナマズの字を構成している「念」は「思」(土気)に通じるところから、ナマズは土気象徴物となる。「木剋土」の理が働く以上、ヌルヌルした体のナマズも、ヒョウタンに抑えられることになる。江戸時代に登場したナマズ絵においても、ナマズはエビスの持つヒョウタンによって抑え込まれているものが存する。
ところで、『延喜式』の「鎮火祭」祝詞に次のくだりが見える。
「水神・匏(ひさご)・川菜埴山姫四種の物を生み給ひて、此の心悪しき子の心荒れびるは、水神匏、埴山姫川菜を持ちて鎮め奉れと事教へ悟し給ひき。」
(伊佐奈美乃命が伊佐奈伎命に)水神・匏・川菜・埴山姫の四種の物をおうみなさって「この心の不良の子の心が荒れすさまれる時には、水神が匏を、埴山姫が川菜をそれぞれ持って鎮め申しあげなさい」と、火結神を鎮め申しあげることを教え悟しなされました。
匏はヒョウタンによって作られた液体保存用の容器である。具体的には酒や水を入れる生活用具である。「瓢鮎図」やナマズ絵では木気象徴物として登場するヒョウタンも、如上の祝詞では火災を防ぐ力があるものとして捕らえられている。それは何故であろうか。
鎮火祭は火災を防ぐために行われる、火神を斎(い)い鎮める祭りである。火神に奏上する祝詞の中で用いられる匏は、水気象徴物として位置付けられている。
火気の火神に対抗するためには「水剋火」の理により、水気の呪的力を使う必要がある。匏は液体を入れる容器であるところから、火神に対抗し得る呪物と解されたのではあるまいか。
鎮火神祝詞は火神(火結神)の恩沢に感謝するものではない。火事ややけどなどをもたらす災禍神に和平を祈願するという目的がある。崇敬すべき存在である神も、火神の場合、その猛威への畏怖(いふ)感を抱かざるを得ない。
『延喜式』の「鎮火祭」祝詞には次のくだりがみえる。「吾が名妖命の知し食す上津国に、心悪しき子が生み置きて来ぬと宣ひて、返り坐して更に子を生みたまふ。」
祝詞に示された「心悪しき子」とは祭神を指している。これは甚だ注意すべき点である。祭りにおいて、水で火を抑える形で「心悪しき子」であった火神(火結神)を呪術的に剋する狙いがあるとみてよい。災禍神として火神を鎮静化するためには、ひたすら崇敬するだけではいけない。祭りの名において火神を剋し、これによって火害に立ち向かう。
如上の祝詞にある「御酒は〓(さらけ)の辺高知り・〓の腹満て雙べて」(御酒にかめの口元まで高々とたたえ、かめの腹部の満ちる程盛り入れ、それを幾つも並べて)も象徴するごとく、液体を含むもので火神に対抗したのである。 |
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