2005年 6月 6日 (月) 

       

■ 〈杜陵随想〉石井実 ピト君の夢

 いつもはほとんど話題にもならない西アフリカのギニア湾に面したトーゴ共和国の記事が最近の新聞に載っていた。どうやら国内に政情不安が広がっているらしい。その記事を読みながら、ふと、ピト君のことを思い出した。

  ピト・ウエッソ君は、トーゴの中央部ソツブア地方アドジェングレ村に両親・祖母と兄弟11人と一緒に住んでいるサッカー好きの青年だが、もう20歳になっていると思う。

  実は、わたしとピト君は3年ほど前まで10年以上フォスター・プランのペアレントとチャイルドだった。フォスター・プランはNGO(非政府組織)の国際援助団体だが、現在13の援助国でおよそ120万人のフォスター・ペアレントが43の発展途上国のフォスター・チャイルドを通してその家族を含めた地域の環境や生活を改善、向上させるための援助活動に力を注いでいる。

  ピト君がフォスター・チャイルドになったのは、5歳のころだったと思うが、数年前ピト君が小学校の課程を終えたので、われわれの親子関係も終了した。

  その10年余りの間、ピト君を通じてトーゴの実情と人々の生活の様子を垣間見ることができた。この国の面積は青森県を除いた東北6県に匹敵するが、人口は400万人ほどの農業国で所得水準はl世帯でも年間やっと100ドルを超す程度だという。世界でも最貧途上国の一つに数えられていて、特にピト君の住む地帯は牧歌的だがいまだに原生的な厳しい生活が営まれているようだ。

  ピト君一家は、ささやかな農地を耕し、藁(わら)屋根で2部屋しかない土壁造りの住まいに家族15人がひしめいている。主食はトウモロコシのパンとヤム芋で、もちろん電気もテレビも電話も水道も、最近までは共同トイレもなかった。夜はランプ生活で燃料の薪(まき)は2キロ以上も離れた森に取りにいかなければならないし、生活用水は毎日数百メートルも隔たった集落の井戸にくみにいくしかない。満足なトイレもないので、用を足すのは近くの藪(やぶ)を利用するのだが、最近はその藪も少なくなり探すのに苦労しているという。

  子供たちの教育は緒についたばかりで、学校も机や教材も満足にはほど遠い有様で、医療や保健衛生については、常に危機的状況におかれているらしい。

  フォスター・プランは、このような環境を少しでも改善し、その地域の人々が健康で幸せな生活ができるように、井戸を掘り、トイレを作り、学校を建て、机やいすを整備し教科書を用意するために資金面から援助しようという計画である。現在日本にはおよそ6万人の、岩手県では約400人の人々がフォスター・ペアレントとして毎月なにがしかの定額の援助をしている。

  途上国援助は、国際的プロジェク卜としてODA(政府開発援助)によるところが極めて大きく、国連のユニセフなども欠くべからざるものとなっている。

  加えてフォスター・プランなどの国際民間ボランティア団体もその重要な一翼を担っているといえよう。
  ところで、ピト君は、チャイルドとしての10余年間に年に2、3度は近況報告を寄せてくれた。ほとんどが援助団体のスタッフやボランティアの人々の代筆だったが、それでも将来に向かって精いっぱい生きていこうという気持ちや熱意は十分にくみ取ることができた。
  特に、彼の将来の望みは、村で一番の農夫になることで、それも今の鋤(すき)や鰍(くわ)だけの農作業を機械がやってくれる日本のような農業にしたいというのが、最後の便りに記された夢であった。ともあれ、トーゴの政治や経済が安定し、彼のもう一つの望みでもある「飛行機に乗る」ことと併せてピト君の夢が一日も早くかなえられることを願わずにはいられない。
(盛岡市つつじが丘)



本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします