2005年 6月 11日 (土) 

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉11 箱ケ森(はこがもり、865b)

     
  はこがもり  
     
  「箱ヶ森」は雫石町と盛岡市の境、南昌山塊のうちでも北に位置するブナの森だ。ハコを重ねた形に見えるから箱ヶ森と称したと聞く。あるいは「ホ(秀)・コ(処)の転で、『突出した所』のハコの森か」(岩手の山名ものがたり)となろうか。されど箱ヶ森がハコ形に見えるかといえばさあ、どうだろう。

  そこで、盛岡市の北部に住む友人は気をもんだ。

  「あのピークは何で、どれが何という山にあたるの?」

  800メートル前後の山容が同じく重なるこの方角では、山の見極めがとても難しい。

  内証の話だが、箱ヶ森に関するわたしの第一印象は魚だった。空気を吸う瞬間、水面に向かってパクッとあけた魚の唇のように、箱ヶ森のてっぺんは不思議な角度で割れている。

  あるときわたしは遊び心にかこつけ「えいッ、ままヨ、『魚のパクッ』で覚えてしまえ!」と開き直った。ひとつ決まったらもう簡単。赤林山、毒ヶ森、南昌山、田沢山、東根山…と、居並ぶ山々をスルスル言い当てられたから、自己流の山座同定もまんざら捨てたものではない。

  こうして苦しまぎれに覚えた箱ヶ森だが、四季を通し楽しめるブナ原生林の里山としては一級だ。6年前の新聞で「本州産クマゲラ研究会が、箱ヶ森の中腹でクマゲラのねぐら穴や食痕とみられる跡を確認した」という記事を興味深く読んだ。野鳥に愛されるブナだから、やはり自然豊かな森のハコなのだろう。四季の巡りに応える木々の、ピュアな色使いが満ちあふれている。

  まず、目指すは盛岡市太田猪去・簡易保険保養センター。そのセンター手前、猪去林道入り口に分かりやすく図解した「箱ヶ森登山コース案内板」がある。

  @案内板から猪去林道を2キロ進む。A登山口。登山届けノートが設置され、駐車も可能。Bジグザグ道を標高500メートルまで上る。Cブナ原生林の尾根上はおやつタイムに好適地。D推定樹齢700年というクロビ大樹を誇る鞍部。Eロープに頼るスリリングな急坂。Fが頂上、二等三角点と権現様が待つ眺望のいい広場に着く。奥羽山脈や北上高地をしつらえ、並べた花札のように6月の平野部が華やいでいるのだった。

  帰路はいったんEに戻り「下山コース」GHへ。Iスギの植林地を下り、猪去沢を渡って登山口Aに帰る。周遊で5時間あれば十分楽しめるだろう。

  数年前に、繋・御所湖方面から箱ヶ森に入る方法も整備された。美しいブナの回廊は箱ヶ森〜南昌山〜東根山(志和三山縦走路)へと、さらに南に走った−。 (版画家、盛岡市在住)

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