■ 〈胡堂の父からの手紙〉14 八重嶋勲 頭毛は至急刈リ取ルベシ
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16 巻紙 明治32年12月30日付
宛 盛岡市四ツ家町猪川静雄方
発 紫波郡彦部村大巻
前略 家内共ニ申残ス(シ)置候ニ付金壱円送金候ニ付可受取候、
相分リ次第試験成蹟(績)報知スヘシ
此場合他ノ俳句小説等ハ全廃シテ一意ニ英語学漢文等他日ノ主眼トシテ風雨ヲ不厭勉強可致候、
葉書年始状ハ多分見合スル方可然当地方極テモ却テ失敬儀式的年始故大ニ減スル様ニ相見得候、喫煙ハ今ヨリ心掛ケ半減位ニ可致、実ニ学生ニテ気力ヲ減ス幼年者ノ身体ニ害アリト学説ナルハ勿論大ニ経済モ宜敷事ト被思候、
川村清一ヘ手紙ハ至急可差立候、
明年夏頃地方ニ轉校スルノ見込アル事ナレバ今家移リハ漸次我慢致シ何分他ニ移ル事ヲ見合他日猪川様御参(賛)意ヲ得事可有之候、痔病及胃弱症ニハ蜂蜜ハ極上薬ノ由ニ候間至急相用ヘ(ヒ)候様可致候、頭毛ハ至急刈取ルベシ、休日間勉強ノ次第ハ折々報導スベシ
一月ノ七日ニ出盛致ニ付其際立寄種ゝ聞取ル事可有之候、
幸ナル事可有之ト推察致候、
余ハ後日ニ相譲ル早ゝ
十二月三十日 長四郎
長一殿
前文金員差出シ事記載候得共休日ノ為メ差出不能明二日若シクハ四日五日頃迄ニ差出スルニ付了知スベシ
【解説】「前略 家内ともに話しおいた金1円を送金したので受け取ること。分かり次第、試験の成績を知らせよ。この場合は他の俳句や小説などは全部やめて一意に英語、漢文などを来るべき日のための主眼として風雨をいとわないで勉強すること。年賀状はがきは、おおかた見合わせするほうがよい。当地方においてもかえって失敬儀式的年始であるから大いに減らすように見える。喫煙は半減するよう今より心がけること。学生は気力を無くし、幼年者の体に害ありという学説があり、経済上も節約になると思われる。川村清一へ至急手紙を出すように。明年夏他の地方へ転校するようであれば今引っ越しはしばらく我慢し見合わせた方がよい。いつの日か猪川先生の賛意を得るようにするのがよい。痔病、胃弱症には蜂蜜が極上の薬とのことであるから至急飲むようにすること。頭髪は至急刈るようにすべし。休日の間の勉強の様子を折々報告すること。1月7日に出盛するのでその際に立ち寄っていろいろ聞き取ることがある。幸いなことがあるものと推察している。余りは後日に譲ることとする。早々。(追伸文)前文の金送金の事を書いたが休日のため差し出すことが出来ない。明2日か、4日5日頃までに差し立てるので了知のこと。」という内容。
この書簡でも、俳句や小説など一切やめて英語や漢文等試験に有効な勉強に一生懸命励むこと。そして猪川塾から引っ越ししようとする長一に対し、明年上級学校に移る見込みがあるとすればしばらく我慢しとどまった方がよい。移るにしても猪川静雄先生の賛意を得てからにするべしとたしなめている。喫煙は半減にせよ。痔病、胃弱症にははちみつが極上の薬服用のことなど細々と健康上の心配をしている。
随筆集『胡堂百話』で「中学生はばんからで無ければならない、私は誠豪傑きわまる方で、中学五年間、まともな格好をしたことがない」と書き、さらに「中でもニガ手は散髪で、これは現在でもそうであるが、床屋へ行くのが、どうも面倒なのである。半年ぶりに盛岡へ出て来た父が、私の頭を見てキモをつぶし、否も応もなく、床屋の強制執行をされたこともある。」とあり、書簡中の「頭毛ハ至急刈取ルベシ」は如実な裏付けである。
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