ここで、ちょっと道草を食うことにします。最近はあまり見かけないのですが、ガソリンスタンド(これは和製英語、英語はgas station、filling stationかpetrol station)の入り口などに「ザ激安、現金歓迎」と書いた大きな立て札が立っていることがありました。
この「ザ…」は何だろう。思い当たるtheの用法を考えはじめました。
I go for a walk in the morning.のtheはeveningでもなくafternoonでもなくmorningですよというある種の限定用法。
In the summer I take a vacation and go to Hawaii.のthe summerは春でもなく、秋でもなく、冬でもなく夏なのですという対比の意味。
これをただ in summerとするとほかの季節との対比が念頭にない場合などと専門書にはあります。料理の名前でもメニューにはaもtheもついていませんが、ウエートレスに注文するとき、The beef steak, pleaseとtheをつけるあれかな?この場合自分がこれから食べるステーキを限定する心からきているのです。
あれやこれやと迷って、「ザ激安」の「ザ」というカタカナ英語は「ほかではやってない、わがスタンドに限ってやっている現金客に対する割引だよ」という限定用法のつもりかなと考えてみた。
一般にカタカナ英語は名詞が多く、動詞、形容詞などがそれに続く。冠詞までカタカナ語にするなど、さすがカタカナの威力!
ならば何でaのほうはカタカナにならなかったのか。「ア激安」いや「アッ激安」。わるくないぞ。しかし、aは不定冠詞というだけあってパンチ力は少ないのかもしれません。とすると、「ザ激安」を最初に使った人は英語の心に詳しい人かもしれない。
などと考えているうちに、「ザ激安」の「ザ」のところだけが赤で大きく書いてあるのに気がつきました。要するに、単に目立たせるための手段として利用したのかもしれません。それ自体では固有の意味内容をもたず、すぐ日本語に置きかえにくい記号的色彩の強いtheをあえてカタカナで「ぶっつけた」のではないかと、今は思っていますが、いかがでしようか。(言語人文学会会長)
|