■ 〈盛岡ことば入門〉251 黒澤勉 あっつぐなるよんたなす
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暑い・熱い−あっつ、暖かい−ぬぐい・ぬぎー、ぬるい−ぬるけ、さむい−さみー
今回は皮膚で感じられる感覚−暑さ、熱さ、暖かさ、寒さ…などに関連した言葉を取り上げてみましょう。
同じ土地に生きている人々は、共同風呂に入っているように、同じ温度の空気に包まれて生活しています。同じ湯に浸っている人々が、その湯加減について感想を述べ合うように、わたしたちは、その身体で受け止めている温度について、まるで身体から発する声であるようにあいさつ言葉として感想を語り、共感しあっています。1年間の、気候を取り上げたあいさつ言葉を一巡りしてみましょう。
@「きょうも、あっつぐなるよんたなす(暑くなるようですね)」
「んだなす。こどすぁいっつもより、あっつぐなるのぁ、はえーよんた(早いようだ)。まいにぢ、あっつくて、おらぁ、まいってやんすた」
共通語の「あつい」は盛岡弁で「あづ」とか「あっつ」と言います。感情をこめて言うときは「あづー」「あづあづ」とも言います。つまり、語中のタ行音「つ」が濁音化(有声音化)して「づ」になったり、促音の「っ」が入り込んだりするわけです。
A「いいかじぇぁ(風が)、ふいで、すずすぐなってきやんしたなす」
「ほんに、そでがんすなー。ひるまぁ、あっつども、よあさぁ(朝夕)、きもぢぁよがんすなー」
工藤耐子さんによると「あさゆう」でなく逆に「よあさ」と言うのだそうで、驚きでした。共通語の「すずしい」は盛岡弁で「すずす」、「すずしくなる」は「すずすぐなる」です(母音のイがウに近く発音されるためです)。
暑いさ中の涼風は肌に心地良いもの。人はその涼風を求めて木陰で涼み、団扇(うちわ)をあおぎ…などというのは昔のこと、現代では扇風機なんかでは足りず、クーラーも普及してきました。クーラーは便利ですが、詩情、風情がありません。
少し早いですがタイムスの読者の皆様に暑中見舞いの一句をお送りしましょう。
涼風のめくりしままの一頁(かじぇあすずす ほんこめぐれで ひらげでら)
B「きょうあ、ぬぎーなす(暑いですね)」
「ほんにほに、そだなす(そうですね)。ぬぎくてさっぱりすごどぁ、はがいがねがんす(はかどりません)」
「んだなす。あんまりぬぐくて、まいだものも、いれでしまって(乾いてしまって)おえれねでら(大きくなれないでいる―芽を出せないでいる)」
共通語の「ぬくい」は盛岡弁では「ぬぎ」「ぬぐ」「ぬぐい」などと発音されます。「ぬくい」は古語で「温かい」ということですが、盛岡弁の「ぬぎ」は「あっつ」とほとんど同じような意味です。
今では「ぬぎ」「ぬぐ」を使う人は少なくなって「あっつ」を使う人が多くなっていますから、将来は、この「ぬぎ」はなくなりそうです。
C「ゆぎぁふって、さむがんすなす」
「ほんだなぁ。これがら、ふゆで、ゆるぐねがんすなー(楽でないですねー)」
共通語の「さむい」は盛岡弁で「さむ」とか「さみ」、あるいは長音になって「さむー」「さみー」と言います。「ゆるぐね」は「ゆるくない」のなまりで、楽でないという意味です。
D「けさぁ、しばれやんすたなす(冷え込みましたね)」
「んだなす。てぬげぇも(手ぬぐいも)がっちり、こおってらけよ(凍っていたよ)」
「しばれる」は、北海道、北東北の地域で、いてつくような厳しい寒さをいう言葉です。方言は風土と結びついている、とよくいわれますが、この「しばれる」などという言葉も、その代表的な言葉でしょう。語源については諸説ありますが、わたしは「しばる(縛る)」から作られた言葉で、寒さのために身体が硬直し、縛りつけられるようだ、というところからきた言葉ではないかと推定しています。 (岩手医大教養部教授)
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