2005年 8月 6日 (土) 

       

■ 〈賢治の歌〉124 望月善次 星もなく赤き弦月


  星もなく
  赤き弦月たゞひとり
  窓を落ち行くはたゞごとにあらず
 
  〔現代語訳〕星も出ていない(夜を)、赤い弦月がたゞ一人で、窓を落ちて行くのはただ事ではありません。
  〔評釈〕「歌稿B」の「大正三年四月」一四八首中の十七首目で、「93」歌。「弦月」の異常さを問題にしている点については、先に挙げた「われ疾みて/かく見るならず/弦月よ/げに恐ろしきながけしきかな」(91歌)に通じる一首。「弦月」を見つめる話者の目は、「弦月」に近いところにある。「たゞひとり」「落ち行く」と結合比喩(ひゆ)を用いて、擬人化しているところは、その表れである。「月」だから、窓を瞬間的に落ちて行くことはない。(今までの作品を通読したきた読者ならば、この話者が、病者であることも知っているが、「病者」でもある)話者は、時間をかけて「弦月」を見つめているのである。そうした「たゞごと」ではない話者の様子が、作品を通して照射されてくるのである。
(岩手大学教授)

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