2005年 8月 11日 (木) 

       

■ 〈盛岡ことば入門〉256 黒澤勉 あのわらしゃ、めんけな

 Jかわいい・にくたらしい−めんげ・えらすぐね

  共通語の「かわいい」に一番近い盛岡弁は「めんげー」です。「めんけ」「めんごい」「めんこい」などと人によって、また、その場によって発音に変化がみられます。

  「めんげー」は古語の「めぐし」に当たる言葉で、その動詞は「めぐむ」です。「めぐし」は「目」「心苦し」で―見ていて切ないほどかわいい、という気持ちを表した言葉だといわれます。「妻子見ればめぐし、うつくし」と万葉の歌人山上憶良は歌いましたが、親が子を、祖父母が孫をいとしく、かわいく思う気持ちがこの「めぐし」の基本的な意味だったようです。

  盛岡弁では「あのわらしゃ、めんげーわらすだ」とか「めんけーなー、おめさん、とすぁ、なんぼだぇ(歳はいくつなの)」などとよく言います。「めんげー」は、単に顔かたちが美しい、かわいいというのではなく、性格的にも多くの人を魅きつけるようなやさしさ、親しみ深さを含んでいるようです。

  共通語の「憎たらしい」は、盛岡弁では「こにくたらす」「にくたらすね」と言います。しかしこれはおそらく共通語化が進んで使われるようになったもので、古くは「えらすぐね」という言葉を盛んに使っていました。「えらすぐね」は「あいらしくない」という言葉が訛(なま)ったものです。(二重母音のaiがeに、「し」が「す」に、「ないnai」が「ねne」に変化しました。)

  共通語では「あいらしい」とか「あいくるしい」などと言いますが盛岡弁では、これらの言葉を使わず専ら、否定形の「えらすぐね」を使っています。おそらく「めんげー」という言葉が強力に生き続けていたため「あいらしい」が広まらなかったのでしょう。

  「めんげー」の否定形「めんげぐね」も使いますが、それをもっと強調すると「えらすぐね」となります。これをさらに強く言うと「こらえすぐね」です。つまり盛岡弁ではかわいさから憎たらしさに、「めんげー―めんげぐね―えらすぐね―こえらすぐね」という段階があるようです。「うそばりまげで、えらすぐね、やづだ」「こえらすぐね、がぎだ(子どもだ)」などと、腹を立てながら言っている大人の言葉がわたし自身の記憶の底にあります。

  K早い・遅い−はえぇ・おせぇ
  共通語の「早いhayai」「速い」は、盛岡弁で「はえぇhae」となります。同様に「遅いosoi」は、「おせぇose」とか「おしぇoshe」となります。

  「は(もう)、けってきたってが(帰ってきたのか)、ずいぶんはえがったなす」とか「ずいぶんはえぇごど」などと言ったり、「はやぐ、おぎるきになってらっきゃ(起きるつもりになっていたが)、ねぷたくて(眠くて)、ねぼして、おしぇぐなった」とか「はやぐ、いぐきになったども(行く気になったけれど)、よっこ(用事が)あって、おそぐなってしまったんだっきゃ(遅くなってしまったんだよ)」などと言ったりします。

  Lやわらかい・固い−やっこい、かでぇ
  「やわらかいyawarakai」は盛岡弁では「やっこいyakkoi」とか「やっけyakke」と訛ります。「かたいkatai」は「かでぇ」と訛りますが、どのように「かたい」かによって、その他に「こわっぱし」とか「すねぇ」も使います。

  「あいや、ずいぶん、ごはん、めちゃめちゃど、やっけーごど(軟らかいこと)」とか「このだいごん、かでくて(硬くて)んまぐね(うまくない)」「このまんま、こわっぱし」などと言います。

  「こわい」は、共通語では恐怖の感情を表しますが、盛岡弁では疲れたときとか、息苦しいときに、この「こわい」の訛った「こうぇ」を使います。たとえば「はしぇできて(走ってきて)、いぎぁきれで(息が切れて)、あー、こうぇこうぇ(疲れた)」と言います。(恐怖の感情を表す言葉は「おっかね」です)。

  同じ硬いものでも、スルメのように、しなるものについては「このスルメぁ、すねぇなー」のように「すねぇ」という言葉を使います。これは「しない」の訛りです。 (岩手医大教養部教授)


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