さて、英語式語順と日本語式語順の話に戻りましょう。
「ネコはネズミを追いかける」の英語はA cat chases a mouse.です。
mouseは一般に小ネズミ、ハツカネズミ。英語ではこの場合、a catから言い始めなければなりません。「ネズミをネコが追いかける」と言いたくてもダメ。もし、そのつもりで、a mouseから言い始めてA mouse chases a cat.と並べたが最後、「ネズミはネコを追いかける」となってしまいます。
日本語には「は」「が」や「を」という標識(助詞)があるので、ネズミに「を」つけたまま前にもってきて、「ネズミを」から言い始めても大丈夫、ネズミのほうが追われるほうだと分かります。
英語では「は」「を」がないので動詞chase(追う)より先にしゃべったほうが行為者(主語)でその後にしゃべったほうが被行為者(目的語)ということになります。
書き言葉なら、動詞より左にある語句は「〜は」、右にあるほうが「〜を」という約束です。つまり、「〜は」と「〜を」の意味関係は語順で決まるのです。このように、語順による意味関係の決め方はこの言語の他の面にも現れるので、中学時代にSVO、SVCなどの基本文型を学んだわけです。
このように、文法的意味関係を、主に語順に頼るという性質は英語が属している言語グループ(ゲルマン語派)のなかでも英語に特徴的です。
英語はちょっと「変わり者」といってもいいでしょう。英語だって、450年から1100年ころまでの古代英語の時代には、ちゃんと「〜は」や「〜を」などが単語の形で分かるようになっていたのです。
英語はもともと、アングル人とサクソン人の言葉(ゲルマン語派の一つ)で現代ドイツ語がその特色を今に伝えているわけですが、イギリスに渡ったアングロサクソン語は、1066年から中世にかけて、北フランス語を話すバイキング(ノルマン人)などの侵入によって、「〜は」「〜を」「〜に」などが分かるようになっていた語形をやめたのです。
今でも「〜の」という語形は残っていて、いわゆる所有格の〜’sがそれです。これは当時の「化石」の一つなのです。そのころの英語の実例は次回にしましょう。
(言語人文学会会長)
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