2005年 8月 16日 (火) 

       

■ 〈英語ってどうなってんの?〉40 成田浩 どっちが加害者

 前回、英語では「〜は」と「〜を」の意味関係は語順で決まるので、単語の順序を間違うと反対の意味になるという話しをしました。昔の英語では「は」や「を」などは単語の語形に組み込まれていたからその心配はなかったと言いました。今回は、その例を一つあげてみます。

  The man killed the bear.は「その男はその熊を殺した」で、その男が加害者で熊が被害者です。これを、「熊を…」から言い始めたいからということで、The bear killed the man.としてしまうと、その熊が加害者でその男が被害者になってしまうのが今の英語です。ところが古代英語では順序をかえても誤解がないようになっていました。それは助詞のようなものによるのではなく、つぎのような具合でした。

  Se mann thonne beran sloh.
   その男はその熊を殺した。
  Thonne beran se mann solh.
   その熊をその男が殺した。

  seは現代英語のtheで「〜は」の場合の語形、thonneは同じくtheではありますが、「〜を」の場合の語形(当時はthはなく、別の文字でした)です。bearはberaが「熊は」でberanは「熊を」という語形、slohは現代英語に残っているslay(殺す)の過去形です。

  こんな具合で、「は」「を」「に」「の」別に、さらに単数、複数ごとにtheの語形が別々にあって、なおかつ「熊は」と「熊に」などのようにbearの語形も違うわけですから語順を多少入れ替えても、どっちが加害者(行為者、主語)でどっちが被害者(被行為者、目的語)なのかは分かる仕組みでした。ゲルマン語派(英語の親せきの諸言語)に見られるこの仕組みが、英語だけ消失してしまった経緯は前回少し触れた通りです。

  文法的意味関係を表わす手段が英語と日本語では大きく異なることは両言語が属する言語グループの差異に帰する面が多いのですが、日ごろよく目にするやさしい英語を例に言語ウォッチングを続けましょう。(言語人文学会会長)



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