2005年 9月 9日 (金) 

       

■ 〈杜陵随想〉伊能専太郎 セロファンの花

 今年の『短歌研究』新人賞次席、18歳・野口あや子さんの作品が、新聞に取り上げられていた。新人賞受賞者ではなく、その下の人が話題になるというのは、ふつうないことである。年齢の若さ、作品の斬新さが話題を呼ぶのだろう。

  題名からして『セロファンの鞄(かばん)』である。−セロファンの鞄にピストルだけ入れて美しき夜の旅に出ましょう−これがその冒頭の歌である。−ゼリー状になったあなたを抱きかかえ しんじつから目を反(そむ)けませんか−というのもある。

  選者は「現実じゃないことを全く現実と同じような気持ちで歌っているところに不思議な感じがあって、そこが魅力」と言う。異論はない。うまいなあと感心する。芸術の世界は、いつだってこんなふうに、古典的なものや因習的なものを壊しながら進んできたのだから。

  ここで思い出すのは、ビートルズである。彼らがアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を世に出したとき、ファンはすっかりはぐらかされ、混乱し、正直なところ「なんだこれは?」と首をひねった。歌詞も全然勝手が違う。

  たとえば、今では詩(詞)の傑作のひとつに数えられる「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」。−川に浮かんだ小舟に乗っていると思ってごらん そばにはタンジェリンの樹 それにマーマレードの空 誰かが君を呼ぶ 君はゆっくりと答える 万華鏡の眼をした少女だ−

  マーマレードの空なんて、だれが考えつくだろう。詩人ジョン・レノン究極のイマジネーションである。それが「ケンちゃんトコちゃん」の主題歌や、最近ではチャゲ&アスカの歌の一節として出て来たりする。「ジョンは言葉のサルバドール・ダリのようだ」と、プロデューサーのジョージ・マーチンは書いている。

  「ルーシー・イン・ザ・スカイ…」の第二連−黄色や緑のセロファンの花が 君の背丈より高く伸びている 瞳に太陽を宿したあの少女を探しても 彼女の姿はもうない(内田久美子訳)−マーマレードの空や、セロファンの花を歌にしてしまうビートルズ。ビートルズはそのころ25〜26歳、まさに若さの円熟期にあった。アルバム『サージェント・ペパーズ…』は、すべての面で、まったく新しい地平を切り開いた最高傑作と言われる。

  井上陽水が「愛は君」と歌うのを聞いても、名曲「ビコーズ」の一節「love is you」を思い浮かべることができる。ジョン・レノンは今も、何気ない顔で現れ、影響を与え続けている。
  さて、短歌研究新人賞30首に、実はわたしも挑戦してみたのである。かろうじてシッポの方に2首だけ載せてもらえたが、長年ビートルズをやってきても、なんの足しにもならなかった。何よりも、もはや若さやみずみずしさは返らないのだ、ということ、どう見ても「新人」などではありえなくなったことに、やっと気づかせられたのである。(盛岡市本宮)





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