2005年 11月 6日 (日) 

       

■ 〈岩手人の見た戊辰戦争〉14 和井内和夫 久保田藩の苦境5

 ■むすび

  薩長藩閥政府の久保田藩に対する迫害はそれだけに止まらなかった。有名な初岡敬治刑死事件(注6)、贋金事件(注7)、八坂丸負債事件(注8)など、意図的な事件の取り上げによって多くの有為な人材が失われている。

  本題である戊辰戦争における久保田藩の去就を決めた要因であるが、「成り行き説」が中心であると書いたが、戊辰戦後における薩長藩閥政府の久保田藩関係者に対する強引とも思える抑圧ぶりが、そのことを裏付けているように思えるのである。

  薩長藩閥政府権力者たちが、久保田藩出身者を「度し難し」あるいは「面従後言(めんじゅうこうげん)」で油断できぬと決めつけ、中央に登用することはもちろん、前記の初岡敬治事件などのように手段を選ばず排除しようとしたことがそれである。

  考えてみれば、前述のような戊辰戦争の経緯からして、久保田藩関係者としては、薩長藩閥政府に対し言いたいことが多々あったであろうし、一方自分たちの野望のために久保田藩を利用し、前出の薩摩出身大山参謀の仙台藩士暗殺にかかわる暗躍のように、術策を弄した薩長藩閥政府の権力者たちとしては、東北蔑視を根にした「豆を煮るにまめがらを焚く」の策にまんまと嵌(は)めた後めたさから、本来協力者として重用されるべき久保田藩関係者を、権謀術数を尽くして官界の要路から遠ざけようとしたことは容易に想像できる。

  結果として、久保田藩の苦渋に満ちた勝利は、前述の事件などにより、国家や郷土の将来を担うべき人材の枯渇をもたらし、同じ東北諸藩でも、旧制と仁義にこだわり、また地方指向に走った、会津藩・庄内藩・盛岡藩などの、西国人に言わせれば「芸のない敗亡」が、その後明治・大正・昭和にかけて、政・官・財・学・芸・軍の各界に、数多くの人材を輩出するポテンショナルエネルギーになったと言われていることと対象的である。

    ◇   ◇

  【注6】初岡敬治刑死事件

  久保田藩を奥羽越列藩同盟から離脱させた親薩長派の中心人物の一人で、戊辰戦後処理において、奥羽越列藩同盟側各藩の藩主の死罪を強く主張しているところをみると、相当激しい気性の持ち主であったと思われる。

  明治になってから政府の公議人であったが、当時全国各地で起きた士族による反政府運動にかかわったとして死罪になった。

  しかしその真相は、明治2年薩長両藩をはじめそれに味方したいわゆる「官軍」戦没者を祀(まつ)るため、東京九段の招魂社(現在の靖国神社)で行われた戊辰戦争官軍戦没者慰霊祭において、彼が立てた巨大な幟(のぼり)に書かれた文言、「天涯烈士(てんがいれっし)みな涙たる、地下の強魂さだめし臍(ほぞ)をかまん」。すなわち「新政府は我々が期待したものとは違っている。戊辰戦争で死んだ者達は、薩長藩閥に利用されその犠牲になっただけである」という彼の考えとその顕示に対し、自分たちにとって触れられたくない真実と弱みをつかれた薩長出身政府権力者たちが、久保田藩あるいは久保田藩出身者の発言を封じ、また他藩への波及を防ぐための見せしめに、他藩の反政府運動家と気脈を通じていたとして処断した。確かな証拠があったわけではなく、今で言うでっち上げであったと言われている。

  【注7】贋金事件

  幕末のインフレに対応し、また後では戊辰戦争の戦費調達と戦争による被害者救済などの戦後処理のため、久保田藩では一分金・二分金の私銭を造り流通させていた。

  これは当時薩長側・幕府側にかかわらず、たいていの藩でやっていたことであるが、薩長藩閥政府がそれを禁止した明治3年以後も製造発行していたことが発覚し、大問題となって多くの犠牲者を出した。後になっての研究では、当時の久保田藩関係者の、中央権力に対する安易な考え方が原因と言われている。

  すなわち戊辰戦争において、奥羽越列藩同盟を途中離脱し薩長方についたため、周辺諸藩から攻撃を受け悪戦苦闘し、そのため人的にも経済的にも多大の犠牲を払ったという与党意識による甘えが根底にあり、そこを前(注6)と同様久保田藩あるいは久保田藩関係者を閉塞(へいそく)させる機会をうかがっていた薩長藩閥政府に乗ぜられたのであろう。

  【注8】八坂丸負債事件

  久保田藩の支藩が購入するはずの八坂丸なる外国製蒸気船を、薩長藩閥政府と結んだ政商岩崎弥太郎(三菱の創設者)の策略により肩代わりさせられ、その代金支払いのため、その船の運行交易により利益を上げようとしたが失敗し、久保田藩および佐竹家の財政を破綻(はたん)させる莫大な借金を背負わせられ、また有為の人材を失う結果にもなった。発端となった八坂丸自体の値段も、当時としては法外なものであったと言われている。(旧盛岡藩士桑田元理事長、つづく)

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