夜の雨に
なかばいたみて
わが百合の
しづくひかれば
蚊もきてふるへり
〔現代語訳〕夜の雨に半分ほど傷んで(しまい)、わたしの百合の雫が光り、蚊も、(百合に)来て震えています。
〔評釈〕「歌稿〔B〕」の「大正三年四月」一四八首中の一〇八首目で「193」歌の下に書き込まれた「193・194a」歌。「なかば」は、古語では「ちょうど半分」を示すが〔『岩波古語辞典』〕、ここでは現代語的の「半分ほど」を採った。「ガドルフの百合」でも、十本のうちの一本が折れて、ガドルフが「おれの恋はくだけたのだ」という場面があるから、その類似へと傾斜したい読者もあろう。ところで、第四句までを読んできた多くの読者は、結句の「蚊」の登場に意外の感を受ける。賢治が見たそのままを作品化したという論者や、「蚊」の登場が賢治らしいとする論者もあろうが、こうした読者の推測を外す手法は、啄木の「へなぶり歌」に通じるのだということのみを指摘しておこう。
(岩手大学教授)
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