まじめに働いていても、貧乏な若者がいたど。父親が知人の借金の連帯保証人になって、しこたま借財したんだど。若者は魚を売って生活していたど。なんぼ忙しくても、庚申(こうしん)さまを拝む講中には欠かさず出てらったど。
ある日、今まで行ったことのない村へ車で出かけて、サバ売りをしてらったど。その日はどういう訳か、いっこうにサバが売れなかったど。そのうち、だんだんと日が暮れてきたど。これではサバの仕入れ値どころか、ガソリン代にも足りなかったど。そこで、若者は帰りに野原の道を通り、一軒家に立ち寄ったど。
「サバいらねぇすかの、うんと、まけあんすから、なんぼか買ってくねぇすかの」と言ったど。したらば、ネズミ色の服を着た婆(ば)さまが出はってきたど。押し殺したような声で言ったど。
「魚屋、そのサバを味見させろ。うまかったら買うはで」
若者が車からサバを持ってくると、婆さまはそれを生のまま、塩をつけてミッチミチと食ったど。たちまちたいらげた婆さまは「一匹だけだば、なんも味がわからねぇ。もっと、食わせろ!」と要求したずおな。
若者は「うんにゃ、味見は一匹だけでがんす。二匹目からはお金をいただきあんす」と言ったど。これを聞いた婆さまはごしぇで、「なにしたど、このホエドたかり。ほだら、うなを食ってやる」と言って、いきなり、口を耳まであけたど。
どでした若者はとびのき、車を置いて逃げ出したど。ほだども、逃げるふりをして、婆さまが車のサバをバリバリと食っている間にこっそりと戻ってきたど。そしてからに、婆さまの家の天井に隠れたど。
ヤマウバは婆さまに化けていたんだど。サバをしこたま食ったもんだから、炉ばたで大あくびをして、ねぷかきを始めたずおな。
ヤマウバは「さあ、寝るか」と言った後、「いろりの神様す、きょうは木のカラトに寝たらえがべが、石のカラトに寝たらえがべが?」と聞いたど。そこで、若者は「木のカラトで寝でごじぇ」と答えたど。
ヤマウバは、木のカラトの中に入って寝たど。それを見た若者は天井からおりてきて、ヤカンで湯をジンジンとわかし始めたど。それから、キリで木のカラトに「キリキリ」と穴をあけたど。したらば、ヤマウバが目をさまして、「あしたは降るんだが、照るんだが、キリキリ虫が鳴いてら」と言ったど。
若者が穴から熱湯をつぎこむと、ヤマウバは「ギャッ、熱いぞ!誰だ!」と悲鳴をあげたど。若者が「俺は魚屋だ。うなを煮殺してやる!」と言うと、ヤマウバは「俺の寝床の下のきんちゃくをけるから、それでかにしてけろ!」と頼んだど。
ほだども、若者はヤマウバを煮殺し、寝床の下からきんちゃくを持ち帰ったど。中さ一億円入ってらったど。若者が翌朝、警察の人とそこへ行くと、家はなく、庚申さまの碑があったど。
どっとはれぇ
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