■ 盛岡発、先端バイオビジネス 遺伝子発現データ解析の東北化学薬品生命システム情報研究所
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盛岡市の盛南地区に進出を予定する東北化学薬品(東康夫社長、本社弘前市、資本金約8億円)の生命システム情報研究所(小岩弘之所長)は、コンピューターによる遺伝子発現データ解析サービスなどITとバイオ技術を組み合わせたバイオインフォマティックス(生物情報科学)ビジネスを展開している。遺伝子発現データの解析技術は新薬開発、環境、食品など幅広い分野で需要が高まっており、急成長が見込まれる。しかもITを駆使したビジネスのため、地方にいてもグローバルな事業展開が可能だ。「盛岡から先端バイオビジネスを発信したい」と意気込む同研究所の取り組みを追った。
ヒトの遺伝子は7万から10万と考えられている。遺伝子が、どういうたんぱく質で構成され、どういった組織、器官に、どんな時期に発現するのか−。さまざまな生命現象を考える上で、遺伝子の機能を明らかにすることは重要な意味を持つ。
マイクロアレイ(遺伝子情報を集めたガラス基盤)などDNAチップを使った技術の進歩で、生物の発現遺伝子のリストは簡単に獲得できるようになった。しかし、他の遺伝子との関係やたんぱく質との相互作用、特定の疾病や創薬の目的と一致する遺伝子の絞り込みなど獲得したデータを解析しなければ、研究は進まない。研究機関には膨大な遺伝子の情報が蓄積され、解析が追いついていない現状にある。
同研究所はこの点に注目。大学や企業などの研究機関が蓄積した遺伝子発現データをコンピューターで解析し、フィードバックするサービスを始めた。昨年6月からはIBM社のコンピューターソフトを活用し過去10年間の論文情報から研究に必要な情報を的確に引き出す文献検索サービス(テキストマイニング)の提供にも着手。IBM東京基礎研究所とは、このサービスの品質向上につながるシノニム辞書の改善を共同研究している。IBMのような大手企業が地方の企業研究所と組むケースは珍しいという。
研究所は03年7月に発足。12人体制で博士3人を含む11人の研究者が在籍する。現在は盛岡市大通3丁目の七十七日生盛岡ビル内にある。一般のビジネスオフィスと変わらぬ雰囲気だが、スタッフのほとんどがウエット系と呼ばれる実験に基づいた生物学研究に携わっていた人材。生物学的視点からデータを解析できるため、アウトソーシングされたデータの解析にとどまらず、ユーザーの実験計画についてもアドバイスできる強みがある。
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岩手医科大学解剖学第一講座の人見次郎教授(左)と研究内容について話し合う生命システム研究所のメンバー |
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04年4月に遺伝子発現データ解析のサービス提供を開始して以来、これまでに全国の大学、企業から約60件の受注、引き合いがある。和光純薬、コスモ・バイオ、トミーデジタルバイオロジーなど全国に販売網を持つ大手製薬会社やバイオ関連企業など数社とも、サービス販売で事業提携し、全国展開の足がかりをつかんだ。
同社取締役で営業第一グループの工藤幸弘総括営業部長は「IBMなどとの連携など、これまでの事業形態にはない新たな展開が生まれている。非常にインパクトのあるシナジー効果を上げている」と話す。
バイオインフォマティックスによる新サービスの開発提供が加わったことにより、化学工業製品や臨床試薬販売といったこれまでの商社としての枠を超えた事業展開が見えてきたという。バイオ分野の高度な知識を備えた優秀な営業マンを育てる上でも「研究所の果たす役割は大きい」と説明する。
東北化学薬品は化学工業製品、臨床試薬販売に続く第三の柱に、バイオ関連事業を据え、5年後には同事業における総売り上げを20億円、研究所が手がける遺伝子発現解析サービスなどの販売利益合計を3億円とする目標を掲げる。
研究所が立地を計画する盛南地区産業等用地は、工業技術センター、環境保健研究センターが隣接。交通の利便性と県や市の産学官連携への積極的な取り組み姿勢から進出を決めた。近く市と正式に契約し07年4月の新研究所完成を予定する。
研究所の小岩所長は、理化学研究所や国内製薬メーカーなどで第一線の研究者として業績を上げ、公的な研究機関に籍を置いていたこともある。しかし、多額の公的資金が投入された研究でも、社会に還元されずに終わるものが数多くあることに疑問をいだき現職に転身した。
「先端的な情報知見を有効に活用したITバイオビジネスを展開することによって研究を加速させ、科学技術の成果を社会に還元したい」と力説。遺伝子発現データが生物学を語る上で欠かせない要素になっていることから「この分野はまだまだ伸びる」と見る。
研究所は高度なデータ解析技術を駆使し、岩手医科大学解剖学第一講座の人見次郎教授らが進める脳血管の異常を早期に発見する新しい診断薬の研究開発にも参加している。健常者には見られず、脳血管疾患患者に特徴的に現れる血清内の診断マーカー分子を特定し、これを診断指標に、簡便で安価な検査用診断薬の開発を目指す研究だ。
本県は脳血管疾患患者の数が全国でもトップクラス。脳疾患は重い後遺症が残る例が少なくなく、認知症の発症とも深いかかわりがある。介護施設で過ごす多くの高齢者が、脳疾患による後遺症や認知症を患っている実態から考えても、本県医療にとって脳疾患の予防、早期治療は大きな課題という。
現在、脳血管疾患を含めて、血管疾患や動脈硬化に特化された診断薬は存在せず、診断指標と呼べるものも定まっていない。疾患の原因を招く特定の遺伝子やたんぱく質の働きが解明されれば直接、効果を発揮する新薬の開発にもつながるため、研究成果に大きな期待が寄せられている。同研究所との産学連携について人見教授は「企業というよりは同じ研究者という意識で取り組んでいる」と話す。
この研究プロジェクトは昨年12月に、県先端科学技術研究センター(同市飯岡新田)内に開館したJST(科学技術振興機構)サテライト岩手が支援する研究にも選ばれた。
小岩所長は「循環器系の早期診断、術後診断治療に貢献できる優れた技術として世界にも発信できる可能性が高い。バイオITビジネスと連携した成果は、地方からの時代を物語る事例になり得る」と意欲を燃やす。
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