2006年 1月 1日 (日) 

       

■ 〈地域ブランド戦略を考える〉仕掛け人の博報堂担当者にインタビュー

 地域ブランドは、地域の特産品や観光名所をはじめ、産業、文化、風土、都市イメージなど、その地域全体から生まれる、すべてのものが対象になり得る。その土地らしさを価値あるブランドとして内外に知ってもらい、選ばれる町を目指そうというもので、各地で取り組みが活発だ。企業のブランド戦略で、大きな役割を果たしている大手広告会社やコンサルタントも地域ブランドに注目する。ブランドは地域に何をもたらすのか。博報堂MD戦略室・開発チームリーダーの渡邉啓さん、ブランディングプロデューサーの木下富美子さんに話を聞いた。(馬場恵記者)

 なぜ、地域ブランドが求められるのか。渡邉さんは「地域の自立や地方分権、三位一体の改革などが言われ始めた中で、行政はもちろん生活者も変化を敏感に感じ取り、自分たちの住む地域のことを考えなければならなくなったから」と指摘する。

  これまでは何となくその場所に住んでいた人も、なぜその場所に住んでいるのかを考え始める。そして自分が住みたいと思う地域を選択したり、自分たちが住んでいる地域をより理想的なものに変えようとしたりする。逆に地域の側から考えると「選ばれる地域」になるために地域の価値を見いだし、守り育て創造していくことが求められる時代になった。他にはない魅力、価値を創造し発信する地域ブランドづくりが、地域を活性化し、選ばれる地域づくりを実現するという。

  地域が活性化し各地方の個性がはっきりすれば、大都市に集中していた人々も明確な目的を持って地方に出かけるようになる。さらに産業基盤が強化され、就労の場が確保されれば地方に居住する人も増えていくという考え方だ。

  地域資源に磨きをかけ、また住んでいる人も地域に誇りが持てるとすれば「地域ブランド」は素晴らしい取り組みと言える。ただ疑問がないわけではない。これからは全国のすべての自治体が「ブランド」と言い出し、似たようなブランド化戦略が展開される可能性がある。すべての自治体が同じようなブランドを持ってしまったら、ブランドとしての価値が薄れてしまうのではないか。

  この点について渡邉さんは「地域の独自の暮らし方や歴史、文化をまず考え、明確にしなければいけない」と話す。ブランドとして目に見える部分は氷山の一角で目に見えない水面下にどれだけ豊かなものがあるかということに気づき感じさせていくことがブランドづくりの大きなポイントという。そしてブランドとして内外に「約束」できることを明確にしその期待にこたえるべく「継続してチャレンジし続けることが求められる」と言う。

  意識を高く持ち、地域の価値を高めるために挑戦し続ける人がいること。ブランドをつくるのも生かすのもまさにその地域に住む人なのだ。


 博報堂担当者インタビュー


 ■地域ブランドとは何ですか。

  渡邉 2000年を越したあたりから急激に地域ブランド、地ブランドという言葉に注目が集まってきています。ブランドというものを使って地域を元気にしようというのがわれわれの願いでもありますし、お手伝いもできるのではないかと思っています。

  ブランドの考え方はいろいろありますが、やはり選んでもらうことです。選ばれる地域になっていくために何らかの自分たちの価値をちゃんと発見してつくっていかなければならない、守り育てていかなければならないということだろうと思います。

  ■ブランド成功の一番のポイントは。

  木下 明確な約束をつくれるということと、継続的な活動を支えていく人、人々がいるということでしょう。

  渡邉 まずは人です。人がいないとつくれない。ブランドづくりは結果的には人材づくり。その地域ならではの人を地域がどう育てていけるか、また人が地域をどう育てていけるかということ。それがよい相関関係をつくれればいい。その関係が多分これから地域ごとに異なっていくと思います。社会と自分たちの地域というのをうまくとらえながら、地域独自の人づくり、地域づくりの可能性や関係性を考えていく。それを探求するとやはり今の時代、チャレンジだと思います。ブランドをつくっていくためには継続したチャレンジが必要です。

  よく誤解して使われているんですが「問題」と「課題」は違います。シャッター通りの問題も課題ではなくて問題。低迷しているから活性化しようということでしかない。課題は英語にするとチャレンジです。シャッター通りになっている商店街としてチャレンジできることは何か。そう考えていくと、誰が何をすべきだということが見えてくる。

  ■全国で同じようなブランドづくりが始まると思いますが、それで差別化が図られるでしょうか。今までの観光宣伝などと何が違うのでしょうか。

  渡邉 料理に例えればいいと思います。正月の雑煮を作るにしても、雑煮というのは各地、全国にありますよね。作り方はそれぞれ工夫があって、どういう材料を持ってくるかというのもそれぞれの形であると思います。

  おいしい作り方だとか、自分たちの作り方、伝わってきたものがあり、それを新しくしていこうという工夫も出てくる。料理を提供していくのは地域の人ですし、作り方、やり方は地域の人に伝わっていかなければいけない。

  ■どこでも方法をまねてしまうので、素材は違うけれども結局似たようなものができてしまう心配はないですか。全国に湯布院みたいな温泉街ができてしまうとか。その中で、どうやって本物の地域ブランドをつくっていくのでしょうか。

  渡邉 地域の独自の暮らし方とか歴史とか文化とかまずそこを考えて明確化していかないといけない。そこをベースにすると観光地の特徴づけでも奥行きが出てくる。

  ブランドといっても目に見える部分は氷山の一角みたいなもの。氷山は水面下の8分の7の部分が、ちゃんと存在しているからこそ氷山なわけです。目に見えない部分にどれだけ豊かなものがあるかということを自分たちで気づき、そこを感じさせていくことがすごく重要なことだと思います。

  ■企業のブランド化であれば非常に相手が分かりやすいですよね。売れたとかユーザーに評価されたとか。地域ブランドって観光客など外から来た人に選んでいただくということのほかに住民がこのブランドについてどういう意識を持つかという方向でも考えなければいけない。経営ツールとしてブランドを語る場合と、地域ブランドを語る場合とでは違うのでは。

  渡邉 地域の場合は立場や利害関係が異なる人たちがいます。同じ地域に住む者としての意思を共通にしていかなければならない。いわゆるコンセンサスづくりみたいなものをどう創造的にしていくかが、すごく大きなポイントです。

  コアとなる推進母体を作っていき、合意あるいは統一された意思というものが何なのかということを明確にしなければいけない。選ばれる理由をつくるということがブランドの一つだとすれば、もう一つ大きなポイントは「約束」を明確にするということです。

  「約束」とそれに対する「期待」が一緒に握手されている状態じゃなくてはいけない。期待と約束のきずながブランドの本質だと思う。

  ■地域ブランドといっても一般には、せいぜい地域の特産品を売り出すぐらいのイメージしか持てていない。お話のあったような地域ブランドの考え方を定着させていくのは、結構エネルギーが要ると思いますが。

  渡邉 はっきりさせておかなければいけないことは、ブランドをつくるということはブームをつくるということではないということです。ブームをつくるのではなくて、いかに継続的に長期に、約束と期待のきずなをつくれるかということが一番大切だと思います。継続的にやっていけるものは一体何なんだろうということ、そこが知恵の見せどころだと思います。

  例えばニューヨークの地域ブランドは「アイラブ・ニューヨーク」みたいな、すごく分かりやすいスローガンがあって、シンボルマークもみんなが分かるようにちゃんと出ていて、中の人も外の人もアイラブ・ニューヨークと言える氷山の頭のところがはっきりしている。その下のところにいろいろな人たちのアイラブ・ニューヨークがあるわけです。

  ■中心市街地の活性化にもブランド化は有効ですか。

  木下 中心市街地も含めてブランド化に参加するんだという、それこそシャッター通りの人たちや商店街連合会なんかの人たちがそれを意識し具体的に空きスペースをどう活用するかというような形で動いていければ効果はあると思います。結局ブランド戦略だからといって黙っていて何とかなるかというと全然ならないわけです。市が動き始めたことをチャンスだととらえて具体的に中心市街地の人たちが何をできるかを考える。スローガンが決まった時にそれを実現する場所としてどうするか。いろいろな活動を動かす、コンピューターでいうところのOSに当たるもの的な機能を果たすビッグアイデアが生まれた時に、自分たちは何ができるかと考えて行動していければ効果ありだと思います。

  渡邉 中心市街地はブランドのあるなしにかかわらず、テーマとして何を具体的にやるかというアイデアだと思います。

  木下 競合するものは何なのか、都市に限るか限らないかも含めて当然考えなくてはいけないし、受ける側、ターゲットになる人たちが今後どういう形で物事を考えていくのだろうかということも考えないといけない。

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