日本語だと「寒いですね」「冷えますね」といいます。そんなとき、寒いのは「あなたがですか」とか「外気でしょう、冷えるのは」などと何か主語を言わなければならないということはありません。英語では、It’s(It is)very cold, isn’t it?ですね。
でも、これを「それはとても寒いですね」などと訳しません。Itというのは代名詞なんだから何か指すものがあるはずだ。だったら、このitは何を指しているのでしょうか?
それは天候、季節、明暗、時間、距離や漠然とした状況を指しています。そんな場合いちいち主語をたてなくてもよいのが日本語で、いちいち何か主語をたてるのが英語です。
この英語は盛岡弁の「寒がんす、なっす」と言った感じです。こんなときまさか「寒いのは、何がでがんす?」なんて聞き返す人はいないでしょう。
英字新聞の天気予報でもcoldとかrainなどのように省略することはあります。でも、基本的にはcoldなのは、このsoupなのか、windなのかをはっきり言葉に出す建前ですから、漠然とした状況さえも何か主語をつけなければいけません。その一つが「それは」と訳せないItというわけです。
よく知られている「どさ」〜「湯さ」で、主語をちゃんと入れれば「あなたはどこに行くところですか?」「わたしはお湯屋さん(銭湯)に行くところです」となります。わたしたちは場面状況や相手との親しさ加減で、かなり主語を言わないですませています。
このitでもお分かりのように英語では主語が強いことがうかがえます。前回の「テニスをすることは健康によい」で、It is good for health to play tennis.というのがありました。例の英語式語順を守るために、まず結論から「ナニナニは健康によい」と先に言っておいて後から「テニスをすること」と言う場合、先頭のナニナニのところに主語〜動詞の語順を守るために形だけでもItを主語として置くのです。
(言語人文学会会長)
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