2006年 2月 5日 (日) 

       

■ 〈書評〉青年賢治の秘めた思い解き明かす 岡澤敏雄氏「賢治歩行詩行」

 岡澤敏男氏の「賢治歩行詩考〜長編詩『小岩井農場』の原風景」を読んで、推理小説を読むときのようなときめきと感動を覚えた。26歳の青年賢治が奥深く秘めていた精神のドラマが、長編詩に散りばめられた謎を通じて解き明かされる。秘めた宗教的行為、恋愛感情にも似た親友との対立。読み終えたとき、賢治がより身近な存在となって新たな像を結ぶ。

 花巻農学校の教壇に立っていた26歳の青年はその日、橋場線小岩井駅から小岩井農場を経由して東北本線滝沢駅までの約20キロの道のりを一人で歩こうとしていた。詩はその賢治が小岩井駅に到着した場面から始まっている。

  日付は1922年(大正11年)5月21日。岡澤氏によると当時の時刻表から午前10時54分着の汽車だった。小岩井農場に保管されていた耕耘(こううん)部の作業日誌と詩に記述された賢治の足取りを時系列でたどると、長編詩「小岩井農場」が正確な農場スケッチになっていることが分かる。

  ところが、その細かな対照の作業から岡澤氏が気づいたのは、正確なスケッチの裏に意識的なモンタージュ(イメージ構成)がなされた形跡だった。

  岡澤氏は、下書き稿に「松の密林での秘技(イニシエーション)」をかぎとり、高農時代の同人誌「アザリア」をともにした親友保坂嘉内との関係に対する葛藤を読み取る。

  賢治は意図的に自分の思いを隠そうとした。だが、その思いは賢治にとってどうしても残しておかなければならなかった。だから自分にしか分からない形でいくつかの言葉を残した。それが最後に記された日付であり、本文のない章題だけの途中章であり、章題すら記載されなかった断章だった。

  岡澤氏は「過去の友情や恋愛や宗教上の脅迫観念からの転生願望が中心的テーマ」と分析する。26歳の青年が、小岩井農場の自然の中で自分の過去と決別する。その秘められたわけを岡澤氏は見事に暴いてしまったという気がする。

  だが賢治はいつか、誰かがこの思いを明らかにしてくれる日がくることをきっと待っていたに違いない。

  読み終えて再び本をめくると、みやこうせい氏の写真が改めていきいきと胸に迫ってくる。発行所は未知谷(電話03−5281−3751)。定価2200円。

(関口厚光)

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