さそり座よ
むかしはさこそいのりしが
ふたゝびここにきらめかんとは
〔現代語訳〕蠍(さそり)座よ。昔はそのようにに祈ったのですが、再びここに、きらめこうとは思いませんでした。
〔評釈〕「歌稿〔A〕」の「大正五年三月より」七十七首中の十一首目で「266」歌。「さこそ」は「さ(然)」+「こそ」で、「そのように。ほんとうに。」などの意。「蠍座」は、「賢治が最も好んだ星座で」、その理由は、主星「アンタレスの赤さ」と「伝えられる蠍の毒虫の生き方」であろうと言われるが〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕、短歌の範囲では、その重要さの域にまでは至っていなかったと言ってよいであろう。読者の側からすれば、話者の「さそり座」との関係やそれへの思い、祈りの内容などがある程度分かって初めて、話者の感慨に共感できるわけであるが、例によって、そうした仕組みにはなっていない。賢治の根源的な問いにかかわる作品の一つであることのみを再度指摘しておこう。
(岩手大学教授)
|