2006年 2月 6日 (月) 

       

■ 〈賢治の歌〉304 望月善次 輝石たち心せわしく

 輝石たち
  こゝろせはしく別れをば
  言ひかはすらん函根のうすひ。
 
  〔現代語訳〕輝石たちは、追いたてられるように、別れを言い合っているのでしょう。箱根山の薄日のもとで。

  〔評釈〕まずおわびから。昨日の「さそり座よ/むかしはさこそいのりしが/ふたゝびここにきらめかんとは」は、「歌稿〔B〕」八十四首中の十一首目で「267」歌。抽出歌は、同じく「歌稿〔B〕」八十四首中のもので、十二首目の「268」歌。「歌稿〔A〕」では、第三句は「さよならを」。「輝石(きせき)」は、「最も普通にみられる造岩鉱物」〔『マイペディア』〕。抽出歌に即すると「箱根火山岩の横断面に見られる柱状輝石」のこと〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕。「せはし(忙し)」は、「心に余裕のないこと」。「輝石〜こころせはしく〜言ひかはす」は、「結合比喩(ゆ)」で、賢治比喩の中心をなす喩法。別れを告げるのが通過している話者たちではなく、輝石であって〈作品〉となる。
(岩手大学教授)

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