2006年 2月 8日 (水) 

       

■ 〈盛岡ことば入門〉281 黒澤勉 つらつぎぁ、いー

 一九五、「つら」を含む言葉−つらわり、つらつぎいー、〜つらすに、つらつぎす
 
  盛岡弁では顔のことを「つら」と言います。共通語でも「つら」を使っていますが、「間抜けづら」「紳士づら」「どのつら下げておめおめと帰ってきたのだ」「カエルのつらにしょんべんかけたようだ」などという使い方でもわかるように、相手をののしっていう卑語として使っています。

  盛岡弁では「かお」という言葉を使わず、いつも「つら」で通していますし(といっても、共通語に押されて今や少数派でしょうが)、そこには卑語という感覚がありません。ですから「おめはんのつら」などと言われても、ばかにするな、などと思わないでください。

  「顔」は、人間の体の中で、いつも世の中に見せている「看板」であり、本の「表紙」のようなところです。写真をとるとき、顔を撮ります。手とか、足とか、頭ではなく、目、鼻、口、眉(まゆ)など、いろいろなアクセント、アクセサリーをそなえた顔が、その人の人格を示す「看板」「表紙」です。

  それだけ重要な部分ですから、「顔」という言葉を含んだいろいろな表現があります。今回は盛岡弁の「つら」を含む言葉を取り上げてみましょう。

  「つらつけね」−これは以前にも紹介しましたが、ふてぶてしい、厚かましいことを言います。「つらつけね」は、歌舞伎の顔見世番付(それを「つらづけ」と言いました)で、それに出ていないのに舞台に登場して演ずるということから生まれた言葉とも言われています。

  「つらつけね」とは、別な言葉でいえば「おしょすよ、しらねごど」(恥ずかしいことを知らないこと)ということもできます。「しょす」「おしょす」は、盛岡弁では恥ずかしいという意味ですが、伊達弁(一関や仙台)では「つらぱぢー」と言います。これは「つらはぢ(面恥)」を形容詞として使った言葉で、羞恥(しゅうち)心が顔に現れることを示しています。(ちなみに、津軽弁では、恥ずかしいことを「めぐせ」と言います。盛岡弁で「めぐせ」と言うと、みっともないという意味です。みっともない、ということから、恥ずかしいという意味に転じたのでしょう。それはよくわかりますが、盛岡弁の「めぐせ」には、恥ずかしいという意味はありません)。伊達弁で「つらぱぢね」というと、恥じることがない、という意味で、南部弁では「つらつけね」です。「つらがら、ひぁでる」という言い方も、恥ずかしさに顔を赤らめることで、やはり羞恥心が顔に現れることを示しています。

  盛岡弁で「つらつぎぁ、いー」というと、顔つきがいい、ということで、顔だちの整っていることです。また血色がいい、健康そうだというときにも使います。反対は「つらつぎぁ、わる」「つらつぎぁ、わりー」で、人相の悪いこと、あるいは顔色の悪いことです。

  「つらぁ、ひれー」というと、文字通り「顔が広い」というのではなく、交際範囲が広い、ということです。その「看板」「表紙」がよく知られ、多くの人とかかわりがあることを示しているということでしょう。
  誤解しやすいのが「つらぁわりくて、あのひとさ、あわれね」と言う表現です。醜(ぶ)男、醜女だから、その人に会えない、というのでなく(そんなことを気にしていたら生きていけません。たとえどんなに貧しかろうと、人は自分の「看板」「表紙」を掲げて生きるしかありません)、ばつが悪くて、その人に会わせる顔がないということです。「つら」はこの場合、「体面」と考えられます。「つらさ、どろぬる」も、その「体面」を傷つけることです。
  盛岡弁でよく耳にする「しょすつらすに、ぜにっこかりにいぐ」「さむつらすに、そんたなどごさ、いぐな」「なんぎつらすに、そんたなまねしなくてもいんだ」「そんたなごどしゃべれね、しょすつらすに」「おっかなつらすに、おらやんた」などというときの「つら」は何でしょうか。

  「しょすつらすに」は、恥ずかしい思いをして、「さむつらすに」は寒い思いをして、「なんぎつらすに」は難儀な思いをして、「おっかなつらすに」は恐い思いをして…ということで「〜つらすに」は、「〜のような思いをしてまで(〜することはない)」という意味を表しています。しかもその場合の「つら」は、いずれも否定的な内容をもって使われています。つまり、「つら」は、表には隠しているいやな思い、辛い思いなどが現れる所と考えることができます。

  そこで思い出されるのが、「ごでぁ(主人は)へれ、へれってらども(入れ、入れって、言っているが)、ぢゃぢゃ(奥さんが)、つらつぎしてら」などという時の「つらつぎす」という表現です。

  工藤耐子さんによると、これはいやな顔をする、という意味なそうです。つまり「つらつぎ」という言葉に「おもしぇぐなさそうなつらつぎ」という意味を含ませた使い方です。

  高橋タミ子さんによると「やんたくても(いやでも)つらつぎさねで、むがえでくれるひとぁ、いーひとだども、つらつぎするひとぁ、いるもんでござんす」とのこと。なるほど、口先ではいいことを言っても、本心から迎えていない顔つきというのは、よくわかるものです。亭主が人を招きたがっているのに、女房はその客を歓迎していない、それが顔つきによく現れている、それがこの場合の「つらつぎす」です。同じことを「つらくしぇ」とも言います。「つらくしぇ」は、嫌な顔、しかめ面ということです。

  その他、「つらだしす」というと、ちょっと顔を出してくるということで、会合に参加する、出席するとか、あいさつしてまわる(たとえば引っ越しなどのとき)ということです。この場合の「つら」は自分の全存在を代表する所、という意味あいがこめられています。

  こうしてみると「つら」もいろいろな意味合いをもって、さまざまな場面で使われていることが分かります。(岩手医大教養部教授)


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