2006年 3月 4日 (土) 

       

■ 〈英語ってどうなってんの?〉97 成田浩 去年日本に来タ前に…

 では、ここで英語に戻って、時の経過を表すための言語手段を見ていきましょう。
  高校ではこれを「時制(テンス)」と習います。「時制」という文法用語は分かりにくいですが、これは時間や時刻そのものではなくて、時間関係を表す言語手段のことです。ですから、前回、いくつか例を挙げましたように言語によってその方法はさまざまです。

  次の例は、まだ日本語に慣れていないある英語のネーティブが話している日本語です。
  「わたしは去年日本に来タ前にハワイで日本語を勉強しました」(以下、「〜る」や「〜た」などを目立たせる必要があるとき、その部分をカナ書きすることがあります)

  さて、この日本語はどこがおかしいですか。それは「去年日本に来タ前に…」という部分です。正しい日本語は「去年日本に来ル前にハワイで日本語を勉強した」です。

  そのネーティブは、日本語では「去年」という過去を表す言葉がある場合は、「去年日本に来ル」ではなく、「去年日本に来タ」というふうになると習ったのに、なぜ「去年日本に来ル前に…」のようになるのか、といった疑問を持っているのです。これにどう答えたらいいでしょう。無意識で話している日本語のことを改めて聞かれると戸惑うことがあります。

  「日本語はそうなってるからそうなんだ」では、それに答えたことにはなりません。日本語では「〜の前に」(英語なら、before)と言うときは、過去の出来事だからといって、いちいち「…しタ前に」とは言わずに「…すル前に」のままなのです。わたしたちは無意識にそうしています。これがつぎのような英語の誤りにつながります。

  「わたしは去年日本に来る前にハ
ワイで日本語を勉強しました」を I
studied Japanese in Hawaii before I come to Japan last year.としてしまうのです。「来る」の「〜ル」につられて、last year(去年)があるのに、come(現在形)にしてしまうのです。

  正しい英文は、I studied Japanese in Hawaii before I came to Japan last year.です。これをまた日本語に戻してみると、なるほど「去年日本に来タ前に…」となっています。ハワイで日本語を勉強したのも日本に来たのも、ともに過去の出来事なのです。そんなら、時間軸を過去にそろえるのが英語です。では日本語のほうはどうなっているの? (言語人文学会会長)




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