2006年 3月 8日 (水) 

       

■ 〈賢治の歌〉333 望月善次 たそがれの中学校の

 黄昏の
  中学校のまへにして
  ふっと床屋に
  入りてけるかな。
 
  〔現代語訳〕黄昏(たそがれ)の中学校の前で、ふっと床屋に入ったのです。

  〔評釈〕「大正五年三月より」〔「歌稿〔B〕」〕八十四首中の三十五首目で「286歌」。第四句の「ふっと」は、「歌稿〔A〕」では「ふつと」。第三句の「まへにして」は、短歌的表現で、賢治の短歌的力量は、こんなところにも現れている。全体的には「何でもない一首」で、思わず「それがどうした!」と返したくなるような一首であるが、同時に、この「何気ない行為への着目」は、啄木短歌の特徴の一つであるから、その点で「十分に啄木的」だともできる一首でもある。ところで、見方を少し変えて、この作品を次の「287歌」との関係で言えば、志賀直哉の作品の一コマを彷彿(ほうふつ)させるような「287歌」を引き出す「序歌」のような役割も果たしている作品であることも明らかとなろう。
(岩手大学教授)

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