2006年 3月 22日 (水) 

       

■ 〈盛岡ことば入門〉287 黒澤勉 あーしゃっけ

 二〇一、面白い形容詞たち二 −びったらけ・しゃっけ・ゆぷてぇ・まつぺっぇ・こちょがってぇ
 
  盛岡弁の中から発音の面白い形容詞を紹介していきましょう。できれば例文は朗読するなり、盛岡弁を話せる人に読んでもらってください。

  @びったらけ・べったらけ
  「びったらけ」「べったらけ」−いずれも共通語に直すと「ひらたい」です。「ひらたい」は、おそらく「ひら」(薄くて平らであること)と「たいら」(高低凹凸のないこと)の複合した言葉でしょう。盛岡弁では「たいら」を強めた「たいらこい」(「こい」は、「まるこい」「ちゃっこい」「しっやっこい」のように、性質、状態を強調する形容詞接尾語です)が「たいらけ」とか「たらけ」(「い」は、しばしば、脱落します)となり、それを強調して「びっぴらけ」となり、その発音が変化して「べったらけ」となります。

  「げだぁ(下駄が)、すっぺぐれで(すり減って)びったらけぐなった(下駄が平たくなった)」「まんまるけぇ(まん丸の)おもぢ(餅を)びったらけぐして(平たくして)やいでく(焼いて食べる)」のように使います。

  「べたーっと」とか「びたーっと」という擬態語も、この「べったら」「びったら」から生まれた言葉でしょう。「べったら漬け」も重しを載せて、平たく漬けた漬け物という意味です。

  女の子を「びった」「びったこ」「おなごびった」などと言うのは、女の子の性器が男のように突起しておらず、平たいということからつけられたものでしょう。露骨だ、下品だ、と思われるかもしれませんが、親しみをこめた一種の愛称として使っていたと思います。

  Aしゃっけ・はっけ
  「あー、しゃっけ、しゃっけ、しゃっこいみずだごど」「はっけなー、てぁ(手が)しみるでぁ(凍るなあ)」などと言うときの「しゃっけ」「はっけ」は、いずれも「ひやこい」(冷たい)の訛(なま)った言葉です。

  「ひやこい」は「ひやす」とか「ひえる」という動詞に対応する形容詞ですが、少し発音しにくく、いつの間にか「ひゃっこい」となり、それが「しゃっこい」となり、さらに訛(なま)って「はっこい」となったものです。
  Bゆぷてぇ・ゆぶ
  「ぶすぶすって、なにゆぶすてら」「あー、ゆぷてぇ、ゆぷてぇ、まなぐ、あげでらえねじゃ(目を開けていられないよ)」などと言うときの「ゆぷてぇ」は共通語の「けむい」にあたる言葉で、「ゆぶ」とも言います。「ゆぶ」は、「ゆぶい」の、「ゆぷてぇ」は、「ゆぶたい」の変化した言葉でしょう。

  「けむい」が「けむる」という動詞に対応するように、「ゆぷてぇ」は「ゆぶる」という動詞に対応する言葉です。「ゆぶる」は「いぶる」が変化した言葉で、けむる、くすぶることです。(「い」が「ゆ」と変化するのは、たとえば「いう」を実際には「ゆう」と発音していることにも見られます)
  秋田名物に「いぶりがっこ」があります。盛岡には大根をいぶして食品とする伝統はありませんが、これを盛岡弁に直訳すると「ゆぶしでーごん」とでもなるところでしょうか。同様にして、スモークサーモン(鮭のくんせい)は盛岡弁でいうと「ゆぶしじゃげ」です。何だかあまりおいしくなさそうで、これでは売れないでしょう。

  Cねぷてえ
  「ねぷてえ」に関連して思い出されるのは「ゆぷてぇ」という言葉です。「ねぷてえ」は「ねむたい」の変化した音で両唇鼻音のmが両唇破裂音のpになり、二重母音のaiが単母音のeになったものです。
  盛岡の人にすれば「ねむたい」と発音するより「ねぷて」(あるいは「ねんぷて」)と発音する方が発音しやすいのです。というより「ぷ」という破裂音を好む癖があるといった方がよいかもしれません。共通語に比べて、盛岡弁は「ぱ」行音が多く使われる傾向があります。

  「こら!ねぷかげしてねで、ちゃんとかせげ」
  「んー、ゆんべな、おそぐまでおぎでで、ねんぷたくて、ねんぷたくて(眠くて、眠くて)」
  この例のように「ねむかけ」は、「ねぷかげ」となり、「ねむたくて」は「ねんぷてくて」と言ったりします。
(岩手医大教養部教授)


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