■ 〈胡堂の父からの手紙〉53 八重嶋勲 とにかく徴兵猶予願いをいますぐに
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■88半紙・巻紙 明治35年5月27日付
宛 東京市本郷区台町三十六東北館内
止宿
発 陸中国紫波郡彦部村大巻
本月廿三日発シ書面到着セリ本月分食費送金候ニ付受領之上ハ通報スベシ、
学校之方ハ可相成大至急入学可致、法学院之方如何ナルヤ授業料其他ヲ出シ時ハ何日ナリ実地授業受クル方可然、仮令目的外ト雖モ法律ハ何人モ志学ナキハ俗ニ云フボンヤリノ人ニテ将来ノ之為ニ可相成高等学校之方ハ見込之通ニテ可然候、是非ト云フ見込ニテ勉強可致、見込之学校ヘ一ヶ年後ルゝトキ財政上容易ナラサル困難ニテ或ハ半途ニ終ルヤモ難斗候、而シテ仙台ニテ高等入学試験受ル方容易ナラント云フモノアリ、如何ナルヤ其邊モ克ク聞配可致候、免ニ角先キ達ツモノハ徴兵ノ為メ仮ニ資格アル学校ヘ入学□之記セラルゝ方取斗フベシ、昨日モ中野様又ハ家内トシテ相談スル四月十八日以来此度差立ノ金員迄ニ二ヶ月以内ニ於テ殆ント四拾円ノ金員ヲ要スル様ニテハ到底五、六年又七ヶ年徴兵免ルゝ迄学校ニ籍ヲ置迄持切ル事不能ルベシト思フ、当時ノ家政上農事ノ収益一ヶ年高ノ百円内外職務上得ル収得百三十、四十円内交際其他ノ費用引算シテ五十円位ナルベシ、之レニ対スル借金凡そ五百円リ利(利子)百円ト仮定シ何邊ヨリ学費ヲ出シ(ス)ヘキ哉、第一ノ困難ハ此点ナリ、就テハ学校入学ハ何レモ其人ノ方針ニ任シ置キタル次第ナルモ第二医学専科ニ入学スル方如何ナルヤ、経済之点又ハ四ヶ年位ニシテ本職ニ従事スル方万端可然候、其邊篤ト熟考可致候、
次ニミキ事畑中ヨリ貰受ノ事ヲ被申込当時相談中相断ルモ親戚中如何又呉遣事ニ
承諾スレバ直チニ引取ヲ相談セラルゝ模様故農事上ニモ自然響ヲ及ホシ様ニテ殆ント当惑罷在候、之レニ対シ意見至急報導スベシ、右用事迄、早々
五月廿七日 野村長四郎
野村長一殿
免ニ角資格アル学校大至急入学直様徴兵猶豫願差出ベシ
【解説】「本月23日発の書面到着した。本月分食費として送金したが、受領したら通報せよ。学校の方は大至急入学すること。法学院の方はどうであるか。授業料等を出し、何日なり実地授業を受けるのがよい。たとい目的外であっても法律は何人も志ざさないのは俗にいうぼんやりの人だ。将来ためになるものである。高等学校の方は見込み通りである。是非という見込みで勉強すること。見込みの学校へ入るのが一カ年遅れれば財政上容易ならざる困難となり、あるいは半途で終わることになるかもしれない。そうであるから仙台にて高等入学試験を受ける方がよいのではないかという者がある。どうであろうか、その辺もよく聞いたりして考えて見てはどうか。とにかくまずは徴兵猶予のため仮に資格ある学校に入学するよう取り計らうべし。
昨日も中野様、そして家内とも相談した。4月18日以来これまでの2カ月以内に40円も送金した。このようでは、到底5、6年また7カ年、徴兵免ぬがれるまで学校に籍を置くようであってはとても持ちきれない。今の家計は、農業収入1カ年100円内外、役場の報酬130〜、140円、うち交際費その他の費用を引き算して50円位残る。しかし借金が500円あり利子が100円である。どこから学費を出すべきや。この点が第一の困難。ついては、学校入学は長一の方針に任せてきたが、第2医科専科に入学する方がどうか。経済の点、また4カ年位で本職に従事する方が万端よいと思うので、よくよく熟考するように。次にミキ(長一の妹)を畑中家から嫁にもらいたいと申し込まれている。今相談中であるが、断るのも親戚であるのでいかがなものか。承諾すれば直ちに引き取りたい様子である。わが家の農事の働き手が減り農作業に影響が出てくるので当惑している。長一の意見を至急知らせよ。右用事迄、早々
(追伸)とにかく資格ある学校に大至急入学し、すぐさま徴兵猶予願を差し出すべし」という内容。
この書簡も徴兵の猶予について綿々と説いている。父長四郎はかなり焦っている様子がうかがえる。それと家計上の逼迫(ひっぱく)している様子を収入、支出、借金、利子の数字を掲げて、学費捻出の困難を訴えている。この家計の困難はこれからますます深刻なものになっていくのである。
妹の縁談があるが、こういう状態で家族の働き手が減るのは、農事上も家計上にも大きな打撃となるのである。
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