とりて来し
白ききのこを見てあれば
なみだながるる
寄宿のゆふべ。
〔現代語訳〕採って来た白い茸(きのこ)を見ていると涙が流れる寄宿舎の夕べなのです。
〔評釈〕「大正五年三月より」〔「歌稿〔B〕」〕八十四首中の六十二首目で「310歌」。第三句は、「ながれぬ」からの推敲(すいこう)。「キノコ(茸・蕈)」は、賢治の関心のある植物。「白」と「キノコ」の結びつきもお馴染(なじ)みのもので、例えば、童話「どんぐりと山猫」の「白いきのこ」を思い浮かべる各位もあろう。涙を誘った原因としての「白ききのこ」が、涙を流すことに、どの程度の役割を果たしたかは具体的には示されてはいないが、とにかくそれを直接的な契機として涙は流れたのである。「寄宿」と言えば、伝記的には、この「大正五年」のこの時期の賢治は、盛岡高等農林二年生の一学期に相当し、数名残った二年生の室長の一人として、「南寮9室」において、保坂嘉内等と出会ったのである。
(岩手大学教授) |