2006年 4月 8日 (土) 

       

■ 〈賢治の歌〉364 望月善次 雲陰の山の紺より

 雲かげの山の紺よりかすかなる沃度
  のにほひ顫ひくるかも
 
  〔現代語訳〕雲で陰になっている山の紺色の方面から、微(かす)かな沃度(ヨウド)の匂(にお)いが、ああ震えるようにやって来ます。

  〔評釈〕「大正五年三月より」〔「歌稿〔A〕」〕七十七首中の六十首目で「313歌」。先に「235・236a歌」として取り上げた「雲垂れし火山の紺の裾野より(雲垂れし/その死火山の裾野より)/沃度のにほひしるく流るゝ」とほとんど同じである。「沃度」は、「アイオダイン(iodine)」の訳で「ヨウド」の音はフランス語のiode、ドイツ語のJodeによるものだという〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕。ヨウ素〔ハロゲン元素;記号T〕のことで、賢治作品においては、匂いが中心であり、薬品のヨードチンキ(tincture of iodine)を連想させるものであったという。「顫」は、音が「セン」で「寒さなどに震えること。」が原義。「かすかな」匂いにも反応する鋭敏な思いをもつ話者を見ればよい。

(岩手大学教授)


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