夏きたりて
人みな去りし寄宿舎を
めぐる青木に
あめそゝぎつゝ。
〔現代語訳〕夏が来て、寮生がみんな去った寄宿舎の周囲に植えてあるアオキに雨が注いでいます。
〔評釈〕「大正五年七月」〔「歌稿〔B〕」〕三十六首中の四首目で「333歌」。初句から第二句にかけては、「歌稿〔A〕」は、「夏となり人みな散りし」の形であった。「青木」は、ミズキ科の常緑低木で、室内鑑賞用のものもあるが、庭木等によく用いられる。伝記的なことを記せば、この年度の夏休みも、七月二十一日から九月十日までであったわけだが、この作品においては、そうした伝記的事実としての日付は重要ではない。「人みな去りし寄宿舎」(もっとも、農科一・二年生は八月十日まで実習があったとされるし、賢治自身も、八月一日〜三十日は、東京独逸学院のドイツ語講習で上京している。)と、その周りに在るアオキと、そのアオキ雨が注いでいるという対比こそが重要なのである。
(岩手大学教授)
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