2006年 5月10日 (水) 

       

■  〈盛岡ことば入門〉294 黒澤勉 のたくたど、あるってら  

 二〇五、面白い擬態語たち(その三)
 
  盛岡弁には面白い擬態語がたくさんあります。その二に続けてまた紹介してみましょう。

  @のたくたど・のったらくったら・のったらのったら
  「のたくたど、あるってら(歩いている)」「のったらくったらさねで、ちゃっちゃど(さっさと)かせげ」「のったらのったら、しゃべるしと(人)だ」などと言うように「のたくたど」「のったらくったら」「のったらのったら」などという言葉は、ゆっくり、のろのろ、緩慢な、鈍重な様子を表す擬態語です。

  共通語の動詞「のたくる」「のたうちまわる」「のたつく」「のたうつ」などにもこの「のた」が隠れています。また擬態語の「のたり」「のたりのたり」の「のた」でもあります。「のたくる」は、「ぬたくる」の変化した言葉で「ぬた」は泥のことをいいます。農作業で泥だらけになって仕事がはかどらない、そんな様子を表したのがこれらの擬態語ではないかとも考えてみましたが、どうでしょうか。

  Aのっつり・のっこり・のこっど・のっこど

  「のっつりど、ゆぎぁ(雪が)ふった」「のっこり、しゃっきん(借金)、のごして(残して)しんだ」「やさい、くいきれねくれ(食べきれないくらい)、のっこりど、もらった」「のこっど、ゆぎぁふってら」「のっこど、こんびぁたがってら(垢=あかがついている)」などと言うときの「のっつりど」「のっこり」「のこっど」「のっこど」はいずれも量の多いことを表します。共通語でいうと「どっさり」「ごっそり」といった感じです。

  語源はよくわかりませんが「残る」という動詞を擬態語化して、残るようにというところから、たくさん、という意味になったものかもしれません。

  Bのへらっと、のへのへど、のっぺらぽんと
  「あのしとぁ、のへらっとした、しとだ」と言うと、気のきかない、ぼんやりした人だ、ということです。「のへのへど、へやのながさへってきた」と言うと、厚かましく家の中に入ってきたということです。また「なんぼしゃべってもほでね、のへっとしている」と言うと、いくら言ってもわからない、ぼんやりしていて、ということです。「のっぺらぽんと、おがった」と言うと、のほほんと、気のきかないままに大きくなったということです。

  このように「のへらっと」「のへのへど」「のへらぽんと」は、共通語の「のほほんと」「のうのうと」にあたる言葉で反応がない、鈍くてぼんやりしている、あるいは厚かましいことをいいます。「のん気」の「の」を核としていろいろ変化させて作った言葉かもしれません。

  Cすっくもっく
  「おめぇ、なんで(どうして)すっくもっくしてら、しょんべんでもでるのが」「ちょずどご(トイレ)さ、いきたぐなって、すっくもっこめがしてら」などというように「すっくもっく」は、もぢもぢ、そわそわと落ちつきがないことをいいます。共通語の「そわそわ」「もぢもぢ」にあたる言葉です。

  Dすてんと・すってこてん・すてーんと
  「すてんと、ぶっころんだ」「すてんと、わすれだ」「すてんと、やらえだ(だまされた)」「すってこてんに、まげだ(負けた)」「すてんと、おっけって(ひっくり返って)しまって、おしょすがたよ(恥ずかしかったよ)」などというときの「すてんと」「すってこてん」は、完全に、見事に、その動作がなされるときに使います。共通語の「すってんころり」「すってんてん」にあたる言葉です。「すべってころぶ」の「すて」を取って作った言葉でしょう。

  Eずへ・ずへらっと
  「ずへっとしたやづだ。なにしゃべっても、びっきのつらさみずだじぇ(蛙=かえるの顔に小便だよ)」「ずへらっとしてる」などと言うときの「ずへっと」「ずへらっと」は、図々しい、厚かましい、ということです。「図々しい」「図太い」の「図」をもとに作った言葉でしょうか。

  Fずやずやど
  「ずやずやど、いのぐえーわりい(胃の具合が悪い)」「ずやずやど、やむ(病む)」「いづまでもずやずやど、こごどまげる(こごとを言う)」などと言うときの「ずやずやど」は、共通語の「もやもや」に近い言葉で、鈍痛や不快感が継続するときに使います。

  このほか、痛みを表す擬態語として「いがいが」「ずっきずっき」などさまざまな言葉があります。こうした言葉を集めて整理、考察すれば医療に役立つかもしれません。

  Gずたっと・ずったり
  「ずたっと、きてらった」「あのしとぁ、ずったり、きてらった」の「ずたっと」「ずったり」は、いつも、とか、たびたびという意味です。「ずっと立ち通しだ」などというときの「ずっと」という言葉を擬態語にしたものかと思われます。

  Hずらずら・でらでら
  共通語の「すらすら」は盛岡弁では「ずらずら」と訛(なま)ります。それを動詞化したのが「ずらめがす」で、文字を崩して上手にすらすら書いているときに使います。

  その反対に「でらでら」は同じ文字を崩すのでも、粗末に、何が何だかわからないように崩して書いていることです。「でらでらど、ごまかしてかぐな」などと言います。
(岩手医大教養部教授)
 
 

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