2006年 6月7日 (水) 

       

■  〈賢治の歌〉422 望月善次 日本橋この雲の色

 日本橋この雲のいろ雲のいろ 家々
  の上にかゝるさびしさ。
 
  〔現代語訳〕日本橋の(上にある)この雲の色よ雲の色よ。(それが)家々の上に掛かっている寂しさといったらありませんね。

  〔評釈〕大正五年八月十七日付の保坂嘉内宛書簡中の二十首の十四首目。「日本橋」は言わずと知れた現在の中央区日本橋川にかかる橋及び地名〔以下共『マイペディア』〕。抽出歌の場合も、橋でも地名でも通じるが、好みからすれば「橋」に立っている話者がいい。一六〇三年に架設されたこの橋は、高札場等を経て諸街道の起点。関東大震災までは魚河岸のある商業地区。第二句から三句にかけての「この雲のいろ雲のいろ」は、短歌定型を使いこなす賢治が見えると共に、「定型」を打ち破って、自由詩へ展開する縦横さもほの見える。いずれにしても、「さびしい話者」がいて、「家々」が寂しいのではない。また、「さびしさ」は、話者の感情的実感であると共に、友への思いを込めたあいさつでもある。
(岩手大学教授)




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