甲斐に行く 万世橋の停車場をふっ
とあわ(ママ)れにおもひけるかな。
〔現代語訳〕(あなたのいる)甲斐の国(山梨県)へ通じる列車の出る万世橋の停車場にいろいろな思いが湧(わ)いたのです。
〔評釈〕大正五年八月十七日付の保坂嘉内宛書簡中の二十首の十五首目。「甲斐国(かいのくに)/甲州」は、現在の山梨県。賢治達の属した南部藩の発生地でもある。保坂嘉内は、その甲府中学校から、啄木を慕って盛岡高等農林に進学し、その入学当初を室長の賢治と同室し、やがて強い友情で結ばれるようになることは良く知られているところ。「万世橋」は千代田区外神田にあり、当時の甲武鉄道(後の中央線)の始発駅があった〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕。「甲斐に行く」には、単にこの鉄道が甲斐に通じているという事実の指摘だけでなく、友人嘉内がいるという思いが込められているのであり、一首全体も嘉内へのあいさつ歌である。二首前の「ふっと」と重なるのは、手紙なればの推敲(すいこう)未遂か。
(岩手大学教授)
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