2006年 6月10日 (土) 

       

■  〈賢治の歌〉425 望月善次 さわやかに半月かかる

   小鹿野

  さわやかに
  半月かゝる 薄明の
  秩父の峡のかへりみちかな。
 
  〔現代語訳〕爽(さわ)やかに半月が出ているいる(日没後の)仄(ほの)かな明るさの中の秩父の山あいの帰り道よ。

  〔評釈〕「大正五年七月」〔「歌稿〔B〕」〕三十六首中の二十首目で「350歌」。初句の「さわやかに」は、文庫版全集においては「さはやかに」と校訂しているが、歴史的仮名遣いに「サワヤカ」説もあるから、「ママ」とはしない。また、結句は「歌稿〔A〕」では「かへり道かな」であった。「小鹿野(おがの)」は、埼玉県秩父郡の町名。「秩父は、日本の古生界研究発祥の地で、盛岡高等農林ではここで土性・地質の実地調査や見学」を行った〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕。賢治は、東京から合流し、引率は関豊太郎教授。「薄明」は日の出前、日没後のいずれにも用いられるが、日没後のことだとした。作品的には平凡な一首であるが、「さわやかに」に、話者の思いも籠(こ)もっている。
(岩手大学教授)

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