2006年 7月1日 (土) 

       

■  〈わが歳時記〉高橋爾郎 7月    

 チャグチャグ馬コも終わってはや文月。7月2日は半夏生、7日は大暑の前、やや暑くなるゆえに催す小暑で七夕。20日は土用、23日は老陽、次第に極まる大暑で丑(うし)の日でもある。

  7月は虹の美しい季節だ。けさ俄(にわか)雨のあと西空に高々と虹が渡った。虹は空の一方に雨が降り、逆の方向から日光が差すとき、その日光が雨滴で屈折反射するため7色の光が見える現象というが、色にも順序があるそうだ。外側から赤、橙(だいだい)、黄、緑、青、藍(あい)、内側が菫(すみれ)色という。だが目の弱くなったぼくにはぼんやりとして定かではない。

  最上川の上空にして残れるはいまだうつくしき虹の断片
  斎藤茂吉

 あいあいと虹鮮しくわくを見て胸顫(ふる)へつ
  つ北くにを去る
  坪野哲久
  邂逅(めぐりあ)ひて今日あることのはかなきに待ちつつ昼の虹を見てをり
  三国玲子

 諦めて別るるすべも得られむとひとり来し旅の空に虹見つ
  大西民子

 つかのまに華やぎ消える虹ゆえに人々の憂いとかなしみを呼ぶのであろうか。
   ※
  毎月のことではあるが「長流」8月号の選歌を済ませ、若山牧水、長谷川銀作の歌の解説などを書き終えてクロネコヤマトの宅急便で送る。ほっとした気持ちで庭に出てみる。

  牡丹(ぼたん)も芍薬(しゃくやく)も花季を終え静かになった。いつからか生えた梅尅吹iばいけいそう)が松の木の下に、ぼくの背より高くなって地味な白い花をびっしりと咲かせている。

  花畑の方へ回る。百合、蛍袋、撫子(なでしこ)、紅白の庭藤が咲いている。京鹿(きょうが)の子が花穂をつんつんと立てて烟(けむ)るように咲いている。あとは何という花か判(わか)らぬが、それぞれ自分の花を咲かせている。たばこを喫(す)いながら腰をかがめて眺める。ちょっとも退屈しない。花とはいいものだ。
   ※
  戦後派を代表する歌人の近藤芳美先生が亡くなられた。93歳だった。戦後間もないころの歌集「早春歌」「埃吹く街」は暗い時代に青春の哀歓と自我と憂いを歌い、ぼくらは感動した。先生は一兵士としての苦悩を通し生涯平和を希求する作品を発表された。

  近藤芳美先生には、ぼく個人としても思い出が深い。若いころ、「朝日歌壇」に何回も採っていただいたこと。第一席に採っていただいたこともある。後年「岩波書店」から刊行された「無名者の歌」にも掲載していただいた。第4回角川短歌賞候補「雪の突放車」も先生のご推薦によるものであった。

  石川啄木生誕100年祭には特別講師として来ていただいた。「啄木の永遠性について」講演、選者もしてくださった。心よりごめい福をお祈り申し上げる。

  北上の現代詩歌文学館では特別企画展「戦後短歌の牽引車・近藤芳美展」が6月4日まで開催され、多くの人に感銘を与えたのであった。
   ※
  流し読む原敬日記男梅雨
  寂しくて犀のごと往く梅雨さなか
  どぜう喰ひ文学の毒ちらしけり
  あをぞらに沈む飛行機大暑来る
  背徳の蛍火ひとつ修司の詩
  「忠ケ」 川村杳平

 (歌誌編集者)

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  【訂正】 前回の稿で「二人の孫も位階勲等など一切ない『原浅之墓』をていねいに拝む」とありますが、「原浅之墓」の前に「原敬之墓」が抜けておりました。


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