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前回、『雪国』の英訳を話題にした時、英語は日本語に比べて主語が強いということが分かりました。それとのかかわりで、itを眺めてみましょう。
I can’t use my PC because it’s (it is) broken.(わたしは自分のパソコンは使えない、それはこわれているから)という発言の中で、it「それ」と言っているのはmy PC(personal computer)「わたしのパソコン」のことを指しています。この場合のitは日本語の「それ」と同じ働きです。でも、英語のitはそれだけではありません。
ふと外を見たら雨が降っているのに気がついて、「雨が降っているよ」と言うのに、It is (It’s) raining.と言います。
このItを「それは雨が降っている」と訳すと変です。そもそも、itは「それ」という指示代名詞なのだから、前に話題として出た語句や事柄を指すはずですが、この場合一体何を指しているのでしょう?
他にもIt’s time to go to bed.「寝る時間だ」やIt’s more than 1 mile to the station.「駅まで1マイルもある」などと言います。中学・高校で、このitは「天候、時間、距離」などの漠然とした状況を指すと習いました。
そこまでして主語を立てなければならないのはなぜでしょう。
思い出していただきたいことがあります。英語では、人にものを尋ねるとき、主語と述語動詞をひっくりかえすのでしたね。
He is a teacher.(あの人は先生です)の疑問文はIs he a teacher?です。「雨が降っているの?」と聞くとき、もしIt isのItがなかったら、どうしますか?ひっくりかえす相手がいなくなってしまうことになります。形だけでもitがあればこそIs it raining?という疑問文をつくることができるのです。
こういう発想のitは他にたくさんあります。語順を中心にした文の組み立てを守るために、ここまでして主語をたてるのです。「義理チョコ」ならぬ「義理主語」とでも言いましょうか。(言語人文学会顧問)
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