2006年 7月8日 (土) 

       

■  〈賢治の歌〉453 望月善次 ただしばし群れと離れて

  〔福島〕
  たゞしばし
  群とはなれて阿武隈の
  岸にきたればこほろぎなけり。
 
  〔現代語訳〕ほんのしばらく、仲間と離れて阿武隈川の岸に来てみるとコオロギが鳴いています。

  〔評釈〕「歌稿〔B〕」の「大正五年七月」三十六首中の三十首目で「歌稿〔A〕」では「福島」と題されている二首のうちの最初の歌で、「358歌」。「阿武隈」については、既に取り上げた『校友会会報』第三十二号中の「はる〓〓と、宗谷に行かん、少年の、工夫はねむる、朝の阿武隈。」もあった。表現の範囲からだけすれば、両者は、関連作品とされても仕方がないものであるが、伝記的事実を加味して、別種の作品だとすることが穏当な扱いであろう。また、抽出歌においては、「岸にきたれば」の表現があるから、「阿武隈」の範囲も、「阿武隈川」に限定できることになる。「群とはなれて」に、話者の心の状態は想像が可能で、その状態は、コオロギの鳴き声と釣り合っているのである。
  (岩手大学教授)


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